ILC誘致「政治決断だけの問題」(東大名誉教授の森俊則氏が私見)
ILC誘致「政治決断だけの問題」(東大名誉教授の森俊則氏が私見)
東京大学素粒子物理国際研究センター名誉教授の森俊則氏は17日、盛岡市内で講演。北上山地が有力候補地の一つとされている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致実現の可能性について、「個人的な感想を言えば、政治的な決断だけの問題」と述べた。
講演会は岩手県ILC推進協議会(会長・谷村邦久県商工会議所連合会長)が主催。ILC誘致を求める行政や県内経済界の関係者ら約400人が出席した。
ILC計画を推進している森氏は6月下旬、イタリアで開かれた欧州の次期素粒子物理戦略会議の策定にかかる会合に参加。最新の動向や日本へのILC誘致に対する自身の考えなどを述べた。
森氏によると、物質に質量(重さ)を与える素粒子「ヒッグス粒子」を詳細に調べる研究施設「ヒッグスファクトリー」を造ることが、世界中の素粒子物理学者共通の合意事項であるという。しかし、建設に向けた日本政府の動きがなかなか見えず、その間に欧州や中国は別の大型計画の検討を進めるなど状況が変わってきている。
森氏は欧州の次期戦略について「CERN(欧州合同原子核研究所)における次の計画をどうするかに主題が置かれている。CERNではLHC(大型ハドロン衝突型加速器)の衝突頻度を高める改良が行われ、2041年ごろまで稼働するが、その次のプロジェクトを考えようという議論になっている」と説明した。第1案とされるのが、LHCよりも巨大な「FCC-ee」と呼ばれる円形加速器の建設だが、巨額な建設費がネックになっていると指摘。「第2案として『ILCをCERNに造る』という考えが示されている。2040年代後半というずっと遅い話だが、安くてすぐ造れるし、実現性は高いと思う」と述べた。
一方、中国も円形加速器計画を打ち出している。来年から始まる5カ年計画の中に入れようとしている。「もし承認されれば2027年には建設が始まるとみられ、2030年代後半には稼働するだろう」との見通しを示した。講演の後段、森氏は「状況が非常に込み入っている。もし日本でILCを早々と造っていれば、全てうまくいっていたのだが」と述べた。
質疑応答で聴講者の一人が「ILC誘致運動を10年以上やっているが、なかなか実現していない。誘致運動の力点の置き方が間違っているのでは」と指摘。森氏は「研究者としてやれることは限られている」とした上で、「個人的な感想を言えば政治的な決断だけの問題。いかにわれわれが(決断を)引っ張り出せるかだが、かなり難問だと思う」と述べた。