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ブラックホールの活動期捉える
多文化共生で国際的まちづくりへ(コラム「時節の風景」より)
日本国内で暮らす外国人が増えている。技能実習や留学、結婚など要因はさまざまだが、国内に居住する上で地域住民との良好関係は欠かせず、暮らしやすい環境づくりも求められる。国際交流や国際協力の考え方は定着した感があるなかで、ここ数年は特に多文化共生という言葉が聞かれるようになった。国籍や文化の違いを認め、地域コミュニティーの構成員として共に生きるとの考え方だ。
市地域づくり推進課によると、市内に住む外国人は現在、約700人。ベトナム、中国、フィリピン出身者が3分の2を占める。コロナ禍の影響で1年ほど前は600人を割り込んだものの、徐々に戻りつつあるという。
多文化共生の文言は、1970年代に首都圏の自治体が外国人との共生を施策に位置付けたことに始まるようだ。社会保険の加入や市営住宅への入居条件などに国籍制限をなくすなどした。1995年の阪神・淡路大震災では、被災した外国人への支援活動を通じて共生の必要性が叫ばれもした。
総務省も2000年代に入り、地方行政の重点施策に多文化共生の推進を位置づけ、自治体の取り組みを支援するようになった。現在、多文化共生アドバイザー制度に基づき、自治体の要請に応じて先進的な知見やノウハウを提供する人材を派遣するなど自治体支援にあたっている。
奥州市の場合、2014年3月に多文化共生推進員設置規則を設けて、外国人が暮らしやすい環境の整備に取り組む。共生社会の実現にあたっては、医療や教育、産業振興などの分野で課題が指摘される。
市は一昨年度、市国際交流協会や在住外国人などで構成する多文化共生推進検討委員会を設置し、外国人が暮らしやすい環境づくりについて議論を深めた。
この結果、災害発生時の避難行動や情報入手などに不安を抱える在住外国人が多いことから、防災にかかわる提言書をまとめ、昨年4月に市当局へ提出するまでになった。
多文化共生の取り組みに際しては、同推進課の業務として位置付けられるが、連携事業として同協会の果たす役割は大きい。市が委託事業とするのは、ラジオ放送による日常生活全般に関する情報提供。「やさしい日本語」を含む5カ国語で伝えている。
県内で先進的な取り組みなのが、医療通訳の派遣。外国人の受診にあたり、県南地方の八つの病院に通訳ボランティアを派遣している。ボランティア登録者は現在、70人ほど。連携病院の広がりは今後求められる一方、ボランティア数の確保にも努めたい考えだ。
市は、外国人の暮らしやすさが多文化共生の実現につながり、さらに国際的なまちづくりに視線を注ぐ。北上山地が有力候補地とされる素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の実現に向けては、外国人と地域住民によるコミュニティーの形成が想定される。
このため、新年度の組織再編で政策企画部への「ILC・多文化共生推進室」の新設を見込む。同推進課の業務の一部をILC関連業務に集約することで、多文化コミュニティーの創造にも結び付けたい考えだ。
(小野寺和人)