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地球規模観測へ一歩(国立天文台、VERA水沢局に新受信機)

地球規模観測へ一歩(国立天文台、VERA水沢局に新受信機)
地球規模のブラックホール観測に向け、新たな電波受信装置が搭載されたVERA水沢局。12日に試験観測が行われる

 水沢星ガ丘町の国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)が運用する「天文広域精測望遠鏡(VERA)」の水沢局に、ブラックホール(BH)の高精度観測などを目的とした新しい受信機が搭載された。12日に韓国の電波望遠鏡と連動させた試験観測を実施。性能を検証し、早ければ来年度から地球規模の電波望遠鏡観測ネットワーク「GMVA(グローバルミリ波VLBI観測網)」に加わり、BHの動画撮影などを目指す。
(児玉直人)

12日 試験運用で性能検証

 同観測所の秦和弘助教や本間所長、同観測所で研究活動している東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(株)東北事業所=江刺岩谷堂=の田崎文得・シニアスペシャリストらは、地球から約5500万光年(1光年=約9.5兆km)離れたM87銀河の中心にある巨大ブラックホールを観測。BHに吸い込まれるガスの流れがつくり出す構造「降着円盤」の撮影に、世界で初めて成功した。
 この観測に用いられた観測網がGMVAで、ハワイや欧州、南米などに点在する16局の電波望遠鏡で構成される。2019年4月に「人類史上初のBH撮影」として話題となった成果も、全て日本国外の電波望遠鏡を使用したものだった。日本人研究者が数多く活躍していながら、水沢など国内の電波望遠鏡が使われていない理由は、同じ波長帯に対応した受信装置が備わっていないためだ。
 電波望遠鏡は、天体が発する電波を受信して観測。GMVAは波長3.5mm帯の電波に対応できる望遠鏡で観測網を構成している。一方、水沢など国内4カ所に設置されているVERAには、44.7mm、13.6mm、7mmに対応した受信装置を搭載している。
 電波の波長が短いほど、精細な観測結果が得られる。しかし、電波を受ける反射鏡の表面を高精度に仕上げる必要があるほか、空気中の水蒸気などの影響も受けやすくなり、技術面や観測の困難さは増す。
 秦助教らは大阪公立大学と共同で、VERA搭載用の3.5mm帯受信機を開発。水沢のVERAに搭載し、動作試験を行ってきた。望遠鏡の構造的な精度に現時点では問題はなく、今月12日の夕方から韓国の電波望遠鏡と連動させた試験観測を行う。
 同観測所の小沢友彦・特任専門員は「大きな研究成果を得るまでに、研究者たちは長く地道な作業を続けていることにも関心を寄せていただけたら」と話している。