ILC建設コスト1兆円超に(国際研究者チーム、最新見積もり)
ILC建設コスト1兆円超に(国際研究者チーム、最新見積もり)
岩手県や国内の素粒子物理学者らが北上山地への誘致を目指している「国際リニアコライダー(ILC)」の最新建設コスト(2024年時点)が、1兆3765億円と見積もられていることが分かった。ILC国際推進チーム(IDT)が見積もったもの。7日、県庁で開かれた本年度第1回県ILC推進本部会議(本部長・達増拓也知事)の中で、直近動向として県ILC推進局が報告した。今年はILC計画の実現を左右する欧州素粒子物理戦略(欧州戦略)の次期計画策定作業が行われる。県は「誘致判断の節目」と捉え、日本政府への要望や国民的機運の醸成を図る構えだ。
(児玉直人)
県推進本部が動向共有
次期欧州戦略の策定に伴い、世界中の国際研究者組織や機関は意見書を提出。県によると、ILC関連ではIDTのほか、日本の高エネルギー委員会、世界中の線形加速器研究者らで組織する「LCビジョン」と呼ばれるグループから意見書が出されたという。
IDTが見積もった最新の建設コストは1兆3765億円。内訳は、土木建設や加速器本体の建設費用が1兆2381億円、電子と陽電子の衝突現象を捉える測定器の建設費用は1383億円となっている。
文部科学省の第1期ILC有識者会議が研究者側から聴取した2017年時点の建設コストは8033億円(土木・加速器本体7028億円、測定器1005億円)で、1.7倍に増えている。年間運転経費も、392億円から1.6倍の633億円に膨れ上がった。建設コストや運転経費には、国や地元自治体の負担が見込まれる周辺環境整備にかかる諸費用、維持コスト等は含まれていない。
日本の高エネルギー委員会は「日本でのILC実現のためには、国際的なパートナーとグローバルプロジェクトとして実施することが重要」。LCビジョンは、スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究所(CERN)に線形加速器実験施設を整備する案を提示している。
次期欧州戦略は12月に作成された草案が、来年1月にCERN理事会へ提出される見通し。戦略にILCがどのように記載されるかによって、日本誘致の実現が左右される可能性が高い。欧州では大型の円形加速器「FCC-ee」も検討されており、建設コストは2兆6503億円と見込まれている。一方、中国では大型円形加速器を自国内に建設する計画があり、年内に研究者側から中国政府へ提案。順調に進めば2年後に着工する見通しだ。
県ILC推進局は「ILCにとって節目の年になる。日本政府にILCの世界的な議論をリードしてもらえるよう、国内議論を加速させ、国民的な機運醸成を図る必要がある」と強調した。今月日には東北のILC誘致関係者による合同要望会を実施。達増知事、倉成淳奥州市長らが文部科学省や自民党本部など関係先を訪問する。大阪・関西万博来場者へのPR事業も展開する。
本部会議で達増知事は「次期欧州計画の策定に向けた動きなど、今年は非常に重要な年。県民と力を合わせてILC実現に向けて進めていこう」と述べた。