火星圏への旅 準備進む(MMX計画、水沢の研究者たちも参加)
【寄稿】国際科学都市の展望をーILCってなに?(NPO法人イーハトーブ宇曲実践センター、千田一幸)
岩手県は大震災からの復興のシンボルとして、平泉の世界遺産登録とともに「TOHOKU国際科学技術研究特区」創設を提言し、国の復興構想会議にも上げている。その中心となるのが直線型大型加速器「国際リニアコライダー・ILC計画」の東北誘致にある。国内2カ所の候補地の一つとして、大震災の影響も受けなかった北上山地の安定した岩盤・花崗岩を確認した。
ILCが設置になった場合、長期間国際科学者が滞在する必要がある。100以上の研究所や大学、1000人以上の加速専門家、技術者、高エネルギー物理学者が参加して、家族を含めると数千人の人口規模にもなり、実質的な意味で、国際研究所を中心にした国際科学都市の誕生となる。いわば人類の英知の結集とも言われている。
多様な分野で新たなインフラ形成も生まれ、前にも書いたが、経済効果面でも建設時10年間で5兆2000億円を超える試算がある(国際経済政策調査会調べ)。研究から生まれる多くの最先端技術の大きな経済効果も期待できる。
ところで、国際リニアコライダー(ILC・International Linear Collider)について、よくわからないとの話を聞く。「昨年から関連する講演会も多いが、国際リニアコライダーの内容を理解している人は少ないようだ」との指摘を受けた。確かに宇宙創成などによほどの興味を持っている人か、あるいは二次的な効果を考慮した経済界などを除いて、実際の説明を聞く機会が少ないのも事実であるし、科学的な理論ではむずかし過ぎるきらいもある。この機会に、しろうとから見たリニアコライダーの仕組みをほんのさわりだけ説明してみたい。
簡単にいってしまえば、「史上最大最高の次世代電子・陽電子衝突加速器」の設備である。といってしまっても、むろん理解できない。「電子と陽子をぶっつけて、だから、なんだ。もっとわからない」と言われるだろう。
わが国では高エネルギー加速器研究機構がその研究を行ってきた。2008年、小林誠氏、益川敏英両氏はノーベル物理学賞を受賞したが、その理論が衝突型加速器で実験的に検証されたことにもよる。つまり加速器と呼ばれる巨大な装置群で、電子や陽子などの粒子を光速近くまで加速して衝突させ、高いエネルギーの状態を作り出す。その時点がつまり宇宙誕生時まで遡った状態になって、詳細に宇宙・素粒子・原子核・物質・生命の謎を解明しようとする研究である。
宇宙は約137億年前(+-2億年)のビッグバンで始まった(と考えられている)。宇宙始原、創生当時は素粒子の世界だったと言われている、だから、素粒子物理学の研究が成り立つ。
物質の形成を見てみる。入れ子のような話で恐縮だが進める。物質は分子からできている。分子は原子の組み合わせでできていて、さらに原子は原子核と電子から形成。原子核は陽子と中性子から構成されている。さらに陽子と中性子を探ると、最も小さな構成要素である素粒子「クォーク」にまでいきつく。これをいろいろ調べねばならないが、加速器がその有効な役割を果たす。素粒子から原子核、原子、分子レベルでの物質の構造や機能、生命体の生命活動の研究までできると言われ、広範な基礎科学の研究を行えるのだ。
様々な物質構造や機能を原子、分子レベルで観察することによって、物理学・化学・生物学・工学・農学・医学・薬学などまでの研究が可能になる。さらに新材料、新薬開発、医療への利用まで、応用が展開できるというから、本質的な意味がわからない素人としては、唖然とするばかりである。
これらの研究の基礎になるのが全長31-50kmの地下の直線型トンネル内に作る施設であり、リニアコライダーである。極めて精密な高真空ビームパイブを作り、中央部で衡突させ、ビッグバンと同じ高エネルギー状態を作る。その瞬間に発生する粒子を測定・解析し、素粒子の基本法則解明や宇宙創成の秘密に迫る目的だ。広大な宇宙やミクロの素粒子まで知るためには加速の実験は不可欠であり、現代科学を支える重要な研究そのものだ。
現在、スイス・ジュネーブ郊外の地下では、欧州合同原子核研究機関(CERN)が大型円形ハドロンコライダー(LHC)で研究している。この場合、磁石で粒子の軌迫を曲げているが、放射光が出てしまい、粒子のエネルギーが滅少してしまう欠点がある。設置しようとするILCは、LHCをさらに高性能化した加速器として、ほぼエネルギーを損失させないまま直線で衝突させ、従来確認できなかった事実が判明すると期待されている。世界的規模で、次世代を担う役割を果たしてもらうものだ。
先記したように、同加速器からの応用・新技術については実に広範な役割や用途が考慮され、物質科学では、小型・大容量のハードディスクの基礎になる物質の特異性や新しい機能性物質設計のための情報などを調査することで次々展開が図られる。
生命科学では、生命活動を支える多様なたんぱく質分子構造の調査で薬剤設計の応用が可能になる。そして地球惑星科学や環境科学も物質面からの精査ができる。
そのように科学技術の最先端技術で裏打ちされるのが加速器であり、新材料・超精密加工。超伝導技術など、現代科学における極限的な技術を駆使している。そのために、研究で生み出される科学的成果、研究及び開発過程での新技術が産業への有用性を持つようになっている。IT、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、医療、環境まで応用できるようになる。
この施設では多くの科学者の国際協力が必要不可欠であり、科学による国際貢献ができる。教育活動面に目を向ければ、次世代を担う青少年の育成への基礎教育や多様な面での生涯学習も実施。基礎科学は最先端技術を生むことで、各方面におけるビジネス展開が可能になり、コンピュータから医療、通信まで産学連携で革新的技術展開が生まれると言われている。
7月31日にはZホールで、東京大学素粒子物理研究センターの山下了・准教授による「宇宙の謎を解き明かす最先端科学・国際リニアコライダー計画」講演会が行われる。主催は(社)国際経済政策調査会(小柴昌俊名誉会長)。山下氏は1995年からジュネーブのCERNに滞在して世界最大の加速器LEPで研究。質量の謎が解明できるという粒子、ヒッグス粒子探索グループの総責任者を務め、ILC計画の物理研究におけるアジアリーダーを経て、現在小柴昌俊・東京大学特別栄誉教授とともにILC計画などの推進に携わっている。
宇宙の謎に切り込むILCは北上山地が適地と言われている。地元でもさらに興味を持ってほしい。