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火星圏への旅 準備進む(MMX計画、水沢の研究者たちも参加)

ILC将来像描き誘致へ(東北・研究会がビジョン公表)

ILC将来像描き誘致へ(東北・研究会がビジョン公表)
ILCを核とした東北の将来ビジョンに描かれた構想のイメージ

 素粒子物理学の大規模研究施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致を目指す東北加速器基礎科学研究会は10日、「ILCを核とした東北の将来ビジョン」を公表した。江刺区を含む北上高地の地下が有力候補地の一つとされているILCについて、誘致が実現した際の地域の姿や期待される効果などを列記。胆江、両磐地区の北上川東部を中心としたエリアを「国際科学技術研究圏域」と位置付け、国際研究機関や研究者の居住地域などが集中するエリアと想定した。

胆江を含む北上川東部を研究、居住圏域に

 仙台市内で開かれた同研究会の総会・講演会には、達増拓也岩手県知事、村井嘉浩宮城県知事らが出席した。
 同ビジョンは、ILC立地後における東北の地域像や、産業全般に及ぼす効果などを分かりやすく示したもの。都市計画や物理、地域連携の専門家や行政サイドの関係者らで策定委員会を組織。委員会の意見などを反映させる形で、(株)野村総合研究所が作成した。
 同ビジョンでは、ILCが「東日本大震災からの復興と再生の原動力となる」と誘致する意義を明記。ILCの建設から運用段階に至る約30年間で、約4.3兆円の生産誘発額が見込まれるとした。
 素粒子の衝突現象の観測施設や国際研究機関、研究者の居住地域となるエリアを「国際科学技術研究圏域」に位置付けた。およそ15kmから20kmの範囲で研究者やその家族が日常的な業務や生活が営めることを想定した。
 衝突現象が起きるILCの中央部分は山間部になることが想定されるが、主要研究施設などを集積した中核研究拠点は既存市街地の近くや交通の利便性が高い場所に形成する。研究者の居住エリアには、多言語対応の医療機関やインターナショナルスクールを設けるなど、多国籍の人たちの生活に配慮する。
 ただし、日本人社会(地域住民)とILC関係者の社会との交流や経済活動などが不自由にならないよう、既存地域との十分な連携を図ることとしている。
 同研究会は今回策定したビジョンを基に、北上高地へのILC建設の優位性をアピールする考え。これまでは、ILCへの理解を中心とした活動だったが、誘致実現への取り組みを強力に推進するため組織を「東北ILC推進協議会」へと移行。同日の総会で移行案が満場一致で承認された。

ILC将来像描き誘致へ(東北・研究会がビジョン公表)
「ILCを核とした東北の将来ビジョン」の内容が示された東北ILC推進協の講演会(仙台市)

多文化共生社会の構築を

 ILC誘致が実現した場合を想定した地域の姿が示された。今回のビジョンを土台に、新しい地域の姿など、住民生活に密接な分野の構想が描かれていくことになる。
 ILC関連研究施設や研究者たちの居住施設が集中する「国際科学技術研究圏域」のイメージ図を一見すると、衣食住、仕事、学習の場のほとんどが、この圏域内で完結できるような印象を受ける。異国の地で家族の理解を得つつ、研究に励めるストレスのない環境を構築する上で、集積化も一策であろう。しかし、過剰なまでの集積は、逆にILCと既存の地域社会との間に見えない壁を築くことになりかねない。
 2008年、国立天文台水沢VLBI観測所内に奥州宇宙遊学館が開館した。遊学館ができる以前は、同観測所やその前身である水沢緯度観測所は、市街地にありながら一般市民が気軽に立ち寄れる雰囲気は乏しかった。それが遊学館の誕生で市民にとって身近になり、現状は誰もが気軽に自然科学の世界に触れている。
 多国籍の人々を受け入れる環境を整えつつ、既存の地域社会にも良い波及効果や交流が芽生える、そんなバランスの取れた国際学術研究エリアの構築が求められる。産学官民が一緒になって、多文化共生にふさわしい新たな都市像を描いていかなければならない。
(児玉直人)