“選挙年”に問うILC誘致(活動長期化 検証十分か)
“選挙年”に問うILC誘致(活動長期化 検証十分か)
第51回衆院選が終わり、自民党が単独で絶対安定多数を確保。そして胆江地区では金ケ崎町長選、奥州市長選、同市議選が執行された。同地区と国政に共通した政策課題の一つが、素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致。実現を切望する声は依然としてあるが、長期化する誘致活動の妥当性や、そもそも大型国際研究施設を受け入れる余力が地域にはあるのか――。是々非々の議論や検証が十分に行われてきただろうか。本県の政界や産学官は、ILC推進派研究者の説明に沿う形で結束し、将来への期待が前面に語られてきた。こうした構造が客観的な課題検証を鈍らせてはいないか、改めて問いたい。(児玉直人)
先の衆院選県内3選挙区に立候補した10人のうち、選挙公報で「ILC」と施設名を示し、考えを表明していたのは5人。自民の米内紘正氏(1区)、鈴木俊一氏(2区)、藤原崇氏(3区)、中道の階猛氏(1区)、小沢一郎氏(3区)だった。合わせて45人が立候補した奥州市長選・市議選では、市長選の倉成淳氏(現職)、市議選の高橋浩氏(現職)の2人だった。金ケ崎町長選に立候補した2氏は特に触れていない。
考えを明記した候補者全員がILC実現を目指す内容。選挙戦や国会論戦では激しいつばぜり合いを展開している与野党だが、ことILCに関しては本県の国政関係者の間では事実上の一致が見いだされている。胆江2市町議会、あるいは県議会においても同様の傾向。経済界や科学技術政策に関心がある一般市民、ILCの出前授業を受けた児童、生徒、学生らの存在なども相まって、「オール岩手」的な体制が推進派研究者を後押しする形になっている。
ILC計画が一般に明らかになった2009(平成21)年以降、この構図は大きく変わっていない。国内でILCを実現させたい推進派研究者たちと、地方の閉塞感を打破したい本県の行政や経済界。双方の思惑が合致している格好だ。
強調し続けてきた 子ども・夢・復興
ILC誘致を巡る議論では、長年にわたり「人類の知の最前線」「子どもたちに夢を」「世界に誇れる研究」といった言葉が繰り返されてきた。東日本大震災以降は「復興の象徴」という要素も加わった。科学研究の意義を語る上で夢やロマンが否定されるものではない。しかし、それらが政策を判断する根拠そのものになっているとすれば、話は別であろう。
ILCは、建設・運用コストを合わせ数兆円規模と想定される。その実現には建設主体、財政分担、国際合意といった具体条件を各国が対等な関係で協議し満たすことが不可欠だ。
現状を見ると、欧州次期素粒子物理戦略の策定に携わる専門家グループ(ESG)が示した勧告や、米国の素粒子物理学戦略(P5)では、ILCは優先計画として明記されていない。研究分野としての価値はかねて認められてはいるが、建設に踏み切るまでの流れには至っていない。
高支持率が続く高市政権への期待に乗じ、政治的働きかけで状況を打開しようとする声も県内にはある。しかし、国際合意が前提となる計画に対し、国内政治の力学だけで突破できるかのような期待を語ること自体、現実との乖離を広げる危険をはらむ。仮に国会で誘致決議のようなものが行われたとしても、それが建設主体の確定や国際合意を意味するわけではない。
もの言えぬ雰囲気を醸成してはいないか
県や胆江2市町は、誘致活動に関連する予算を恒常的に支出している。2026(令和8)年度当初予算を見ると、岩手県はILC推進事業費として9210万円(前年度比1570万円減)、奥州市はILC推進事業経費の名目で745万5000円(同33万5000円減)、金ケ崎町は誘致関連団体の負担金として総額25万円(前年度同額)を計上している。
予算全体の中の規模としては決して大きくない。しかし、これらが一種のサンクコスト(埋没費用)と化し、事業目的が「建設実現」ではなく「誘致活動の継続」になってはいないだろうか。「なぜ続けるのか」「どこまで続けるのか」という検証が十分だったか、再確認すべきであろう。
もし誘致一辺倒の「オール岩手」の雰囲気や、専門性の高い基礎研究を担う推進派研究者らの存在が、慎重論や疑問点を言いにくくしているとすれば、それはそれで問題である。
撤退も含めた責任ある考え示せるか
ILC誘致は「重要だ」「夢がある」といった抽象的表現が多様されてきた感がある。だが、長期化した誘致活動は、夢だけを語る段階は過ぎ去り、継続の是非を問われる段階にあるのではないか。現在の国際的な位置付けに対する認識に加え、「誘致実現一択」に終始した主張ではなく、実現しなかった場合も見据えた覚悟が求められる。
ILC誘致では、地域振興や人口増、国際交流の拡大といった期待も語られてきた。しかし人口減少が急速に進み、物価が高騰する中で、巨大研究施設の建設や維持が現実的に可能なのか――という視点も欠かせない。
ILC本体は国際プロジェクトで建設するにしても、周辺インフラ整備や生活環境整備といった自治体負担が生じる可能性は否定できない。既存の公共施設やインフラの維持管理ですら、地方自治体の大きな負担となっている中、ILC誘致が本当に持続可能な選択になるのか、しっかり見極める必要がある。
結論が出ないまま期待だけが引き延ばされ続けるほど、実現しなかった場合に受ける失望は大きくなる。誰が責任者なのか曖昧なまま、ただただ月日が過ぎていく。結論が出ないことで地域の政策判断や将来設計が長期間宙づりになる「時間的コスト」、期待が高まり続けるがゆえに客観的な議論や検証を萎縮させる「社会的コスト」を地元は背負うことになる。
誘致活動を続けること自体が目的になっていないか――。その問いから目を背けてはならない。地域が主体的に物事を考えるためにも、誰が、どのような前提で、何を説明してきたのかを整理し、ILC誘致活動を現状のまま続けることの是非を住民に見える形で正面から問う時期にきている。