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望遠鏡保守 寒空もなんの(天文台水沢)
望遠鏡保守 寒空もなんの(天文台水沢)
ブラックホール研究などに使用している国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の口径20m電波望遠鏡で、電波透過膜と呼ばれる部品の交換作業が行われた。世界的な注目を集める研究の発表場面では天文学者たちが脚光を浴びがちだが、巨大な電波望遠鏡の保守作業に従事する技師や企業が地元奥州市にゆかりがあることはあまり知られていない。冷え込みが厳しくなる中、危険を伴う地上23mの高所で地道に作業に当たった。
(児玉直人)
地元ゆかりの技師や市内企業が支えるブラックホール研究
電波透過膜は、巨大な皿(主反射鏡)の中心部分に取り付けられた白い円形のシート。反射鏡中心の底に設置された受信装置を風雨から守る役割を果たす。この電波望遠鏡では、2枚の膜の間に乾燥空気を注入し凸状に膨らませており、今回は外側の1枚を交換した。
同観測所技師の上野祐治さん(47)ら観測所職員と外部業者の作業員合わせて6人は7日、地上23mの主反射鏡の表面へ。踏み板が網状の急階段、狭い垂直はしごを登っての移動は、危険と隣り合わせだ。交換部品や工具類は大型クレーンで運び込んだ。
この日は、雨混じりの冷たい風が吹きつけるあいにくの天気。気温は10度を下回る厳しい状況での作業となったが、時折日が差すと、白い反射鏡がまばゆく輝き空の青さも際立った。
今回使用した膜は、江刺岩谷堂にある大嘉産業株式会社(笠井一宏代表取締役社長)の工場で製造。膜を抑えるリング状の部品は、前沢五合田の(株株式会社千田精密工業(千田ゆきえ代表取締役)が手がけた。さらに陣頭指揮を執った上野さんは衣川の出身。地元ゆかりの企業や人材が天文学研究を支えている。石垣島や小笠原諸島・父島など、水沢と同じ仕様の電波望遠鏡にも“奥州産部品”が使われている。
上野さんは「映画では俳優に注目が集まってしまうが、一本の作品を作るために人知れず大勢の人たちが働いている。道路や水道などのインフラも同様。私たちのような陰ながら支えている人たちが、世の中にたくさんいることに関心を持ってくれたら」と話している。