歴史的意義伝える旧緯度観測所、米・ユカイア市長が手紙
歴史的意義伝える旧緯度観測所、米・ユカイア市長が手紙
緯度観測所が設置されていた都市の一つ、米国カリフォルニア州メンドシーノ郡ユカイア市のダグラス・F・クレーン市長が今年1月、同観測所の保存活用に関する水沢の取り組みに深い敬意を表する手紙を送っていたことが分かった。同市の元市議会議員で副市長なども歴任したクリスティ・ケリーさんが、1月に国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)を直接訪問し届けたもの。手紙はVLBI観測所敷地内の木村栄記念館に今月いっぱい展示している。
(児玉直人)
保存活用巡り新たな縁

VLBI観測所の前身に当たる旧水沢緯度観測所は1899(明治32)年、国際緯度観測事業の実施に伴い、「臨時緯度観測所」として開所した。同事業では、水沢やユカイアを含む世界6カ所に観測所を設置した。各観測所は北緯39度8分上に位置。地球の極運動と緯度変化に関する謎を解明しようとした。
観測所の設置数は、研究方針や戦争の影響などを受け増減。観測事業は1980年代に順次終了したが、80年以上にわたり、途切れることなく観測し続けたのは水沢とユカイアだけだった。
ユカイアでは観測終了後、熱意ある地元住民が保存活用の取り組みを展開。ケリーさんは、この活動や緯度観測所の歴史的意義に深い関心を寄せていた。ユカイアの観測所跡地はやがて市所有の公園となり、定期的に天体観測イベントなども開催している。
ケリーさんは、他の観測所跡地の様子を確かめるため、水沢を訪ねようと決意。ユカイア市当局の協力も得ながら今年1月、夫と共に来日を果たした。訪問の様子は後日、ユカイア市の地元紙『ユカイア・デイリー・ジャーナル』に掲載された。同紙では、ユカイアの観測所とほぼ同じ外観の眼視天頂儀室を目にしたケリーさんが、感動のあまり涙を流したことも伝えた。
ケリーさんが持参したクレーン市長の手紙には、これまで公式的な交流をしていない関係ではあったが「私たちは水沢の人々に自然な親近感をおぼえる」と記されていた。緯度観測の歴史をたたえるため、ユカイア市は施設の保存活用に最善を尽くしている旨を紹介。「水沢においても、この歴史的な観測を顕彰していることを知り感謝している」と敬意を表した。
ケリーさんは市長の手紙のほか、1908年に撮影されたユカイア緯度観測所の写真と現在の写真なども応対した本間所長に手渡した。
水沢では、3年ほど前から緯度観測所時代の文化財管理を担当している蜂須賀一也・特定技術職員が、休日を利用したボランティアガイドを実施。歴史的価値を見学者に伝えている。
本間所長は「同じ緯度観測でつながっている不思議な縁があり、現存する建物は緯度観測事業が果たした大切な価値を今の人たちに伝えている。ユカイアの人たちも地元の誇りとして、観測所跡地を大切にしていることが分かった」と話していた。