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さらば「アテルイⅡ」(国立天文台水沢で稼働スパコン、先月末に運用終える)

中間質量ブラックホール形成過程 謎を明らかに

中間質量ブラックホール形成過程 謎を明らかに
シミュレーションで再現された形成中の球状星団。左下の細かな点の一つ一つが星団を形成する星を表す=(C)藤井道子、武田隆顕

 宇宙に存在するブラックホール(BH)のうち、観測的証拠が少ない「中間質量BH」の形成過程が、国立天文台水沢キャンパス敷地内にあるスーパーコンピューター(スパコン)「アテルイII」を使ったシミュレーションで明らかになった。東京大学大学院の藤井通子准教授らの研究チームによる成果で、同天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長らが研究対象としている「巨大BH」が誕生する謎を知るヒントにもなるという。
(児玉直人)

東京大など研究チーム、水沢のスパコン使い成果

 光さえ吸い込む謎に満ちたBHには、質量が小さい順に▽恒星質量BH(太陽の30~100倍の質量)▽中間質量BH(太陽の数百~数万倍の質量)▽巨大BH(太陽の10万倍以上の質量)――がある。恒星質量BHは、大きな恒星が最期を迎える際に起きる超新星爆発により形成され、数多く存在していることが分かっている。
 巨大BHは、銀河の中心に1個だけある特別な存在。本間所長らが所属する国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ」によって撮影されている。ところが中間質量BHについては、観測的な証拠が少なく、宇宙のどこでどのように形成されるかなど不明な点が多い。
 中間質量BHが存在するであろう場所には、数百万個の星が球状に分布する「球状星団」が存在していることが報告されている。藤井准教授らはこの点に着目した。
 従来のシミュレーションでは、既に出来上がっている星団を対象としており、その結果は「質量が小さい恒星質量BHになる」だった。これに対し藤井准教授らは、星団の基になる小さな星々が誕生する段階からシミュレーションを実施した。
 1回のシミュレーションに要した時間は長い時で3カ月。数回のシミュレーションを行い検証した結果、星々が集まって星団となるのと同時進行的に、集まった星同士の衝突合体が繰り返され、太陽の1万倍程度の質量を持つ「超大質量星」が誕生。これがやがて中間質量BHになっていくと予想した。
 本間所長らが撮影した巨大BHは、存在は確認できても、どのように形成されたのかは解明されていない。藤井准教授は「中間質量BHの形成過程が分かってくれば、巨大BH誕生の謎を知るヒントになる」と説明する。
 シミュレーションに用いた「アテルイII」は、天文学専用のスパコン。初代スパコン「アテルイ」の後継機として、2018(平成30)年6月に本格稼働を開始した。