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新スパコン「アテルイ3」始動(国立天文台水沢)
土木技術 高度で緻密に(胆沢扇状地を潤す「寿安堰」)
NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター理事長で、国立天文台OBの大江昌嗣さん(83)=水沢川端=は3日、後藤寿庵(じゅあん)顕彰会設立10周年記念行事で講演。寿庵が指揮を執り開削した農業用水路「寿安堰(じゅあんぜき)」に用いられた高度な土木技術について解説した。特殊な地形の扇状地に水を安定供給するため、高度で緻密な手法や考え方が用いられたと推測。大江さん自ら、地元高校生の協力を得て分析した研究成果を示し「先人たちの偉業に敬意を表したい」と語った。
(児玉直人)
天文台OBの大江さんが科学的に説く
講演会は、水沢東町の水沢グランドホテルで開かれた10周年記念式典に先立ち行われた。
山形県出身の大江さん。水沢緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)に配属され、水沢に住み始めた当初から、胆沢扇状地と近所を流れる寿安堰について関心を寄せていた。東西と南北にそれぞれ約20kmの長さを誇る日本最大級の扇状地だが、北より南の標高が高く、その差は最大で約90m。ポンプや電子測量機などがない時代、複雑な地形の問題をクリアし、どのようにして前沢方面まで水を流すことができたのか、不思議で仕方なかった。
長い時を経て、その謎にようやく挑むことができたのは2020(令和2)年のこと。胆沢平野土地改良区や協和学院水沢第一高校、理事長を務めるNPO法人の関係者らの協力を得て調査を実施。当時の測量技術を再現しながら、水路の高低差や経路を丹念に調べた。
その結果、無駄なく安定、安全に水を流すために適した緩やかな勾配を得られる場所を特定し、水路を開削していった可能性があることが判明。南側に続く河岸段丘の地形をうまく利用し、必要に応じて途中に滝を設けて流れる力を維持した。
大江さんは「寿安堰は非常に計算されつくされている。キリスト教の弾圧によって、キリシタン領主だった寿庵はこの地を去ることになったが、そのような苦難を乗り越え、完成させた当時の人たちに感謝したい。現在の水路は見た目は変わっても、優れた機能は保たれている。日ごろから管理に当たっている、胆沢平野土地改良区の皆さん、寿庵の功績をたたえている顕彰会の皆さんにも敬意を表したい」と述べた。
講演会会場には、当時の測量技術を推測し、大江さんが考案した手づくり水準器も展示され、参加者が興味深げにのぞき込んでいた。