TOPIC
ブラックホールの活動期捉える
学問分野 垣根越える(「木村栄の書展」を終えて)
水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館で、今月2日に開幕した特別企画展「木村栄(ひさし)の書展」は、同10日に終了した。天文学者という理系分野で業績を残した木村だが、書や謡曲といった文系分野の素養もあるマルチ人間だった。そんな木村の人物像に迫る本企画展は、近年注目されている「学際的研究」のように、学問分野の垣根を越えて理系研究施設と地域社会との関係なども知る機会となった。
(児玉直人)
“新しい人”引き寄せる
本企画展は、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身、水沢緯度観測所時代に撮影されたガラス乾板写真を発見・復元した馬場幸栄さん=国立科学博物館研究員=と、馬場さんの研究成果を紙面連載してきた胆江日日新聞社が主催した。
会場に展示した書や関連品は19点。展示公開を快く引き受けていただいた所有者の理解と協力に、あらためて感謝申し上げたい。
期間中の入場者数は、延べ377人だった。特に記念講演会が行われた3日は110人、書の解説会を実施した10日は109人で、ゴールデンウイーク中の遊学館入館者数に匹敵する数字となった。
この反応は木村の研究成果や天文の世界に造詣が深い人たちが多い――というよりは、木村の書という芸術作品、ひいては木村と地域との関係といった側面について、興味・関心を抱いた人が多くいたと推察する。
天文台という施設が関係する性格上、木村の功績や天文台に関する話題は、どうしても理系の話に偏りがちになる。当該分野に興味・関心が薄い人にとって天文台は、疎遠な存在ではなかっただろうか。木村から数えて13代目となる本間所長は、今年1月1日付の本紙記事で「水沢に住んでいるのに天文台を知らない“新しい人たち”と、どこでどうやって接していけばよいか。これは大事なこと」と語っている。
本企画展は、多くの人たちに「新たな知」を体感してもらう機会になった。文系の人たちにとっては近くて遠い存在だった天文台を身近に感じ、理系の人たちは書という芸術作品に関心を持つという双方に良い効果をもたらした。
多様な知の力 生かす
企画展の告知ポスターには、馬場さんが発見したガラス乾板の中にあった1枚を使用した。書をしたためている木村の姿である。
会場での「書の解説」を急きょお願いした書家・松本啓夫巳(ひろふみ)さんは、この写真に強い衝撃を受けたという。使用している道具や紙、姿勢、表情、手や筆の角度などから、木村はかなりの腕前であると察知した。こうした視点は書の専門家だからこそ導きだせるものである。
今展の企画に当たり、書の専門家による助言、会期中の講演を検討していた。しかし人選に難儀し、半ば諦めかけていたところ、木村揮毫の神社扁額を修復した松本さんとの出会いに恵まれた。
馬場さんが地道に調査し復元した写真の1枚1枚には、多くの情報が凝縮されている。公開しさまざまな学問分野の人たちの目に触れることで、新たな見解が導きだされると期待できる。それだけ価値のある研究と言える。
こうした分野の垣根を越えた取り組みは「学際的研究」などと呼ばれ、大学などで昨今注目されている。一つの学問分野だけでは解決が難しい事象、課題に対して複数の学問分野が協力して研究を進めることなどを指す。
学際的連携で探究を
本企画展の開催を通し、「資料や図録のようなものがほしい」「まだ調べが足りないのでは」との要望、ご指摘もいただいた。木村の功績や緯度観測所、天文台にもっと光を当てるべきだという声も寄せられた。深めるべきものはまだまだある。
奥州市内には数多くの歴史が息づき、さまざまな先人たちに縁がある地域だ。それらをどう有機的に発信していくか。さまざまな人に足を運んでもらい、多彩な分野から知見を得られた今展のように、学際的な連携によって、進むべき道を考えていくことが有効ではないかと思う。