TOPIC

天文学者や現役大学生、科学の魅力伝える(国立天文台水沢で銀河フェス)

水沢をアジアの観測拠点に(国立天文台長・土居氏インタビュー)

水沢をアジアの観測拠点に(国立天文台長・土居氏インタビュー)
 土居 守氏(どい・まもる)
 1964(昭和39)年、愛媛県宇和島市生まれ。理学博士。東京大学大学院理学系研究科付属天文学教育センター教授、同センター長などを経て、今年4月、国立天文台長と同天文台の上部機関である自然科学研究機構の副機構長に就任した。60歳。

 7代目国立天文台長に今春就任した土居守氏がこのほど、同天文台水沢VLBI観測所内で本紙の取材に応じた。数年前に浮上した予算削減問題を踏まえ、複数の予算獲得先を探す努力を絶えず続け「水沢を発展させたい」と強調。同観測所やアジア諸国に点在する電波望遠鏡を連動させたブラックホール観測網の中核を水沢が担うことにより、施設の存在価値を高めていきたいとしている。
(児玉直人)

「好奇心大事に」次代へエールも

 土居氏は愛媛県宇和島市出身。同市には水沢出身の蘭学者、高野長英が「出羽の蘭学者・伊東瑞渓」の偽名で逃亡し潜伏していた住居があり、その地には後藤新平が揮毫した石碑が立っている。「次回、水沢訪問時には長英記念館なども訪れたい」と語る。
 2000(平成12)年から今年3月まで、東京大学大学院理学系研究科付属天文学教育研究センターに所属。同センターは東京都三鷹市の同天文台三鷹キャンパス内にあり、「本当に身近なところから天文台をずっと見ていたし、いろいろな形でお世話になり、また応援もしてきた」。
 もともと電波天文学に携わっていたこともあり、20年ほど前には電波天文学に関係する会合出席のため、水沢の観測所を訪れたことがあった。「ちょうど立ち上がったばかりのVERA(20m電波望遠鏡)をどう応援していくかという時期だった」と振り返る。
 台長となり、同天文台が展開するさまざまなプロジェクトに目を向けることになる。水沢の運営に関しては、本間希樹所長に国際連携担当の台長特別補佐を兼務するよう要請。水沢をアジアの電波天文学の中核になるよう、パワーアップさせたいとの思いがあるからだ。
 2020(令和2)年、水沢の予算が大幅に削減されるという問題が起きた。天文関係者のみならず、一般市民や天文ファン、国会議員らからも心配する声が上がった。当時の経験を糧に、「いろいろな形で予算を取りに行く努力を重ね、水沢をとにかく発展させたい」。
 複数の電波望遠鏡で観測網を構築し、高精度の天体観測を実現させるVLBI(超長基線電波干渉法)は、水沢のお家芸とも言える技術。当初は国内だけの観測網で天の川銀河の地図作りなどを進めていたが、現在は韓国や中国の望遠鏡と連携し、ブラックホールから噴き出すジェットの観測で成果を上げている。今後はタイやベトナム、インドネシアなどに観測網を拡大していくことが期待される。
 「米国は米国で、欧州は欧州で天文の連合体があるが、アジアはまだ小規模。どんどん規模を大きくしていいと思っている。国際協力でやるプロジェクトの中心拠点になっているとなれば、簡単に施設を閉めるようなことはできないし、予算も続けて付けなくてはいけない」
 奥州宇宙遊学館の開設などを機に、天文台と市民との距離感は縮まった。天体観測イベントや研究者との交流、ブラックホールをイメージした菓子や南部鉄瓶の商品化など、地域ぐるみのユニークな取り組みもある。
 「水沢の望遠鏡はブラックホール本体ではなく、そこから噴き出すジェットを観測している。次にまた研究の成功があったら、ぜひジェットをイメージしたお菓子などに挑戦していただけたら」と笑顔を見せる。
 将来を担う子どもたちには、自分の力で謎を解く挑戦をしてほしいと願う。「宇宙に関する謎は、絶えず見つかってくる。天文学を詳しく勉強する前でも、不思議に思ったことが身近にあったら、ぜひ探究してほしいし、そういう好奇心を大事にしてもらいたい。それが科学の発展、宇宙の理解につながると思う」