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ILC誘致、省庁横断の体制強化を(岩手県コーディネーター大平氏が講演)
素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の民間誘致団体、いわてILC加速器科学推進会議(海鋒守代表幹事)の定期総会と記念講演会が30日、水沢佐倉河のプラザイン水沢で開かれた。県ILC推進局でILCコーディネーターを務める大平尚氏が「地球村創生ビジョンとILC」と題し講演した。一般財団法人国土計画協会が策定した同ビジョンを紹介するとともに、ILCを巡る最近の動向を解説。将来加速器に関する文部科学省と内閣府の省庁横断型連絡会議がつくられたことに触れ、「これを本気でやってくれればと思う。政治による後押しで活発に動いてもらいたい」と期待を込めた。
(児玉直人)
同会議は本県南部の北上山地にILC誘致を実現し、市民や産業界レベルで科学的な風土醸成を目指そうと、2012(平成24)年1月に発足した民間のILC誘致団体。NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター(大江昌嗣理事長)にILC出前授業の講師派遣や事務処理委託などを行いながら、ILCの理解普及、関係団体と連携した早期実現に向けた活動を展開している。
記念講演で登壇した大平氏は、県職員の立場で長年ILC誘致に携わってきた一人。講演では同ビジョンの紹介に先立ち、ILC誘致を巡る経過を振り返り、最近の動向を紹介した。
1980年代に現在のILC計画へと結び付く動きが始動。国際プロジェクトとして、世界中の素粒子物理学者らが実現に向けた技術開発などを進める中、日本では2013年に国内の素粒子物理学者らが国内建設候補地として、本県南部の北上山地を選定した。
「北上か九州かという構図になり、一番盛り上がった時期。決定を受け、とんとんと物事が進むかと思っていた」と大平氏。その後、日本学術会議や文科省有識者会議から慎重論が相次ぎ、新型コロナウイルス禍の影響もあり、研究者サイドが場所決定をしてから10年以上経過した現在も、誘致を大きく前進させるような動きに至っていないのが実態だ。
有識者会議等の指摘事項に対し、国際将来加速器委員会(ICFA)などは、ILCは技術的に確固たるものに成熟しており、候補地は日本であると認識している││といった反応を示していると解説。「世界中の研究者は有識者会議の見解に対し『何をいまさら』という見方になっている」と述べた。
ILC計画とともに、フランスとスイスの国境にある素粒子実験施設「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」の後継施設として、「FCC-ee」と呼ばれる周長90kmの円形加速器計画も検討されている。大平氏は「ILCは技術設計まで出来上がっているが、FCCは概念設計までの段階。建設費もILCが約7800億円であるのに対し、FCCは2.1兆円だ」と説明。その上で「ICFAはヒッグス粒子を精密に調べる『ヒッグスファクトリー』の整備を目指したいため、ILC以外の計画についても言及している。『日本が動かないなら他をやる』という状況でもある。『ILCが一番いいよね』という考えもあり、日本のやる気を見せることが大事だ」と強調した。
研究者側が進める技術開発の加速に期待を込めるが、それ以上に政府や政治に対する期待が大きいという。今月、国会のILC推進議連総会があり、内閣府と文科省が情報共有する連絡会議が立ち上がったことに触れ、「省庁横断の調整を図る一歩になる。本気でやってほしい」と述べた。ただ国会ILC議連会長が、自民党の政治資金パーティーの裏金問題の渦中にいる塩谷立・元文科相であり、今後の進展に不安をのぞかせた。
後半で紹介した地球村創生ビジョンは、「世界中からさまざま人々が集い、課題解決に向けて挑戦する場所」を日本国土の中に描こうとするもの。その核となるプロジェクトにILCが位置付けられている。大平氏は「ILCは真理探究のプロジェクト。地域活性化という枠組みだけではなく、人類共有の施設として地球的規模の課題に活用される施設だ」と訴えた。