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まずは国民理解の構築を(国際加速器)
素粒子物理学研究機関・高エネルギー加速器研究機構(愛称KEK、茨城県つくば市)の吉岡正和教授=理学博士=は2日、仙台市の東北大学で講演し、宇宙創成期の状況を再現する大規模実験施設「国際リニアコライダー(ILC = International Linear Collider)」の日本国内設置について、「わが国に計り知れないメリットがある」と強調。ILCの設置は国際協議等を経て、まずは「日本設置」を確実なものにする必要があるため、「学界、産業界、政界が一致協力していく必要がある」と呼び掛けた。
(児玉直人)
KEKの吉岡教授講演「計り知れないメリット」
日本国内の設置候補地には、江刺区などを含む北上高地地中にある花こう岩地帯が有力視されており、同日の講演には奥州市や岩手県の関係者も多数詰めかけ、「ILC設置によって何が解明されるのか」など、基礎学研究における日本の取り組み状況について理解を深めた。
吉岡教授の講演は、先端加速器科学技術推進協議会、東北加速器基礎科学研究会が主催するシンポジウム「宇宙の謎に挑む 日本の貢献」の中で行われた。両団体とも、加速器を使った素粒子物理学研究など、次世代の科学技術開発を推進する産学官連携組織だ。
ILCは世界の素粒子物理学界で開発協議が進められている、国際的な巨大研究施設。あらゆる物質を構成する最小単位である「電子」と「陽電子」といった素粒子の一種を超高速で衝突させることで、宇宙やこの世に存在する物質の誕生起源を探ることなどを目的にしている。
素粒子を衝突させる実験装置「加速器」は、世界各地に点在。欧州合同原子核研究所(CERN)は、スイスのジュネーブに世界最大の加速器「大型ハドロンコライダー」を設置し、今年から稼働開始となった。日本では、つくば市のKEK敷地内に「KEKB」と呼ばれる加速器がある。
しかし、いずれも円形に組まれた加速器で、導き出せる速度には限界がある。ILCは、円形加速器では再現できなかった超高速度による素粒子衝突を実現させる装置。人類が開発する「最も小さい物質を見る顕微鏡」ともいえる。
吉岡教授は素粒子研究や加速器の開発の歴史を解説した。日本にILCを設置することが有利な理由について、精密機器である加速器本体を製造するのに必要な高品質素材を生み出す技術があることなどを列挙。「日本の加速器分野における実力は常に世界の先端を行っている」と語った。
日本にILCを設置するポイントとして、吉岡教授は、「大型加速器を今年設置したCERNやジュネーブの姿勢を学ぶべきだ」と強調。「高い能力を持った人たちが、世界中から集まることに、わが国が投資することは極めてよいこと。そのためにもまずは、日本国民の理解を得ることが必要だ。学界、産業界、政界が一致協力していく体制が欠かせない」と訴えた。