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ILC計画、2年後に詳細設計完成(北上高地も有力候補地)

ILC計画、2年後に詳細設計完成(北上高地も有力候補地)
ILCの想像図。加速器本体を設置するトンネル(右)と電源装置を設置するトンネル(左)の2本が平行で掘られる予定=(C)By Shigemi Numazawa

 世界の素粒子物理学界で開発協議が進められている、大規模実験施設「国際リニアコライダー(ILC=International Linear Collider)」。2012年末までに、ILCの詳細設計が固まる予定で、その後、設置国の選定などに入る。2020年ごろの稼働を目指し、各国の研究者が協議を重ねている。ILC設置地域の選定はまだ先だが、奥州市東部を含む北上高地も有力候補地の一つとされている。

 ILCは、あらゆる物質を構成する最小単位の一つ「素粒子」を超高速で衝突させる施設。「電子」と「陽電子」の衝突反応や内部構造を調べることにより、宇宙やこの世に存在する物質の誕生起源に迫る。
 実験場所は地下約100mに掘られた直線状のトンネル。地上には管理施設や関連研究機関が集積する。「宇宙誕生の謎を探る」とは言うものの、実験から派生して日常生活に応用できる研究成果にも期待が高まる。このため、民間企業の研究所なども集積する可能性がある。
 設置場所について固まるのはまだ先。地盤の強固さ、科学施設にふさわしい立地環境、地元理解などを勘案して決められていく。北上高地が有力候補地とされる理由は、地殻震動を受けにくい花こう岩の岩盤が地底に広がっていることや、東北最大都市の仙台が近郊にあることなどが理由とされている。

ILC主要構成施設 その1 「クライオモジュール」

ILC計画、2年後に詳細設計完成(北上高地も有力候補地)
 超電導で素粒子を光の速度まで加速する装置。内部は液体ヘリウムによる極低温(-271℃)になり、温度差の影響を防止するため、魔法瓶のような構造になっている=(C)Rey.Hori

ILC主要構成施設 その2 「トンネル」

ILC計画、2年後に詳細設計完成(北上高地も有力候補地)
 地下100mに掘られる加速器のトンネル想像図。設計協議が進む中で、必要な総延長距離がどんどん延びており、50km近くになる模様=(C)Rey.Hori

ILC主要構成施設 その3 「衝突反応検出器」

ILC計画、2年後に詳細設計完成(北上高地も有力候補地)
 素粒子の衝突反応を解析する「デジカメのお化け」。数多くのセンサーが取り付けられており、5階建ての建物に相当する大きさが見込まれる=(C)Rey.Hori

ILC計画国内推進拠点のKEK

ILC計画、2年後に詳細設計完成(北上高地も有力候補地)
円のように土地が区画されている場所の地下に、円形加速器「KEKB」がある。ILCはこれを直線状にし、規模を大きくしたものになる(KEK提供)

 日本におけるILC計画の推進体制の中核を担う、高エネルギー加速器研究機構(略称KEK、鈴木厚人機構長)。大勢の国内外の研究者が利用する施設だが、昨年の政府事業仕分けで施設運営に必要な関連予算に縮減評価が下され、関係者は強い危機感を募らせた。

【奥州の中学生も毎年来訪】
 茨城県つくば市にあるKEKの本拠地「つくばキャンパス」には、直径1km、1周3kmの円形加速器「KEKB(ケックビー)」をはじめとする特殊な科学実験装置がある。
 施設利用者は国内の160以上の大学、100以上の研究機関や企業。年間約6000人以上の研究者が訪れる。さらに、アジアやオセアニアなどの50カ国、1000人以上の外国人研究者も受け入れている。大学や企業の研究所単体では、到底保有することができない大規模な実験装置を共有している格好だ。
 宇宙誕生の謎や新物質の創世にまつわる基礎研究を中心に、インフルエンザウイルスの構造解明や新薬、新素材の開発など、日常生活に結び付くような研究もしている。
 青少年の研修受け入れにも積極的。奥州市内の中学2年生を対象に実施している「科学体験研修」(市教委主催)も含まれており、当地方にとっても「まったく無縁」というわけではない。

【仕分け対象になった「特別研究経費」】
 昨年、政治を取り巻く話題の一つとして注目された「事業仕分け」。「負の評価結果」による影響を懸念し、各方面の有力者が相次いで異議を唱える姿が報道された。
 KEKが関連している経費も仕分け対象に。国立大学法人運営費交付金の中の「特別教育研究経費」に対し、「予算要求を縮減するように」との評価が下った。
 大学共同利用機関法人であるKEKにおいて、年間予算(約400億円)の5割以上が同研究経費。内訳は、9割が研究施設や装置の運転、維持管理費用。残りは、最先端加速器の開発や国内外施設との連携研究費用となっている。
 仮に同研究経費が縮減されると、研究施設の運営ができなくなる。研究ができないとなれば、海外の加速器研究所に拠点を求めて人材が流出していく。
 人材流出だけではない。KEK広報室は「素粒子物理学の国際研究拠点としての地位が喪失する。施設を利用中の民間企業の研究も停滞するので、産業界にも大きな打撃を与えるだろう」と問題点を列挙する。

【国民理解の活動をより充実】
 KEKの鈴木機構長は、KEKのホームページで、「科学研究も一切の無駄を省いて効率的に進めなければいけないのは当然のこと。だが、これのみを極論とすると危険な事態を引き起こす」と指摘した。
 同研究経費とILC計画とが直接かかわる部分はないという。だが、KEK広報室は「最先端加速器の技術開発に関しては、ILC計画に必要な技術開発にもつながる要素がある」と話す。
 同室は「これまでも講演会や一般公開、出張講義、パンフレット作成などの広報活動を通じ、最先端研究の魅力、産業波及効果をPRしてきた。地域との連携事業なども含め、今後もさらに充実させ、国民への理解を高めさせたい」としている。

産学官民連携、多岐に(研究学園都市・つくばの市政)

 ILCは世界に1カ所だけしか造られない研究施設。研究者本人だけでなく、その家族なども居住することなども想定した地域づくりが求められてくる。研究機関が集積する茨城県つくば市では、研究機関と連携した地域づくりなどが進められている。

【多様な産学官民連携の取り組み】
 つくば市は茨城県の南西部に位置。市北部に有名観光地の筑波山がある。私鉄「つくばエクスプレス」の2005年開業により、都心からのアクセスが容易になった。
 都内の人口増加により、1970年施行の「筑波研究学園都市建設法」に基づいて、研究都市整備と関連機関の移転が進んだ。現在は約300の研究機関が立地する。
 同市は「2030年までに市内における二酸化炭素排出量%削減」を目指している。この取り組みに、各研究機関が有する世界最高水準の知識と技術を駆使。研究機関集積地ならではの強みを市政に生かしている。
 研究者の受け入れ、特にも外国人研究者に対するもとして、各種学校法人が運営する「つくばインターナショナルスクール(TIS)」がある。日本の小学校教育課程に相当する教育を英語ベースで実施する。外国人研究者にとって、子どもたちの教育環境は重大な関心事。つくば市政策審議室は、「研究者の子弟の教育環境充実に大きな役割を果たす」と語る。
 将来の科学技術を支える子どもたちの育成に関する事業も展開。身近にある研究施設や実験装置は、子どもたちの興味関心を高めるのに一役買っている。
 このほか、産学官民連携を推進する組織として、筑波研究学園都市交流協議会を設置している。

【市財源にデメリット?】
 大勢の研究者滞在や産学官民連携など、メリットばかりがあると思われがちな研究都市だが、意外なデメリットもある。
 同市内には、独立行政法人や国立大学法人の施設が多数立地。敷地面積もかなりの規模になる。しかし、これらの機関の固定資産税は地方税法の定めにより、非課税になる。
 同室は「地方自治体にとって、固定資産税は主要な税源の一つ。これらに対する税収が見込めないのは、残念なこと」と語る。

【候補地の一つとされる岩手では?】
 昨年12月の岩手県議会定例会で可決された「いわて県民計画・長期ビジョン」の中に、技術競争力と産業振興に向け、教育研究機関や国際学術支援エリアの形成を目指す「次世代技術創造いわて構想」がある。
 国際学術支援エリアの形成に当たっては、外国人研究者受け入れに関する体制の確立を見据えた計画策定に着手する。国際的な研究機関や関連企業の誘致、その中核となる研究プロジェクトの調査なども行うとしている。あえて明記していないが、ILCを意識しているといっても過言ではない。
 同様に、国土利用計画奥州市計画にも、公的研究機関・研究施設などの用地確保に関する記述がされている。
 同定例会では、亀卦川富夫氏(奥州選挙区選出)が、ILC計画に対する県の対応について問いただした。達増拓也知事は、施設や研究者を受け入れるための環境整備、機運醸成に努める考えを示している。