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ILCの夢実現へ理解深める(奥州商議所が、つくばのKEKを見学)

ILCの夢実現へ理解深める(奥州商議所が、つくばのKEKを見学)
ILC向けに開発されている装置を見学する奥州商工会議所の関係者

 北上高地が有力候補の一つに挙げられている、大規模素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」設置構想への理解を深めようと、奥州商工会議所(千葉龍二郎会頭)の会員らが日、茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)つくばキャンパスを視察した。素粒子物理学の研究実情や、ILCの実現性などについて研究者の説明を聞いた。ILCは専門性の高い研究機関ではあるものの、商工業界にとっては、国際的な研究施設立地による経済効果や地域振興に注目。長引く地域経済の低迷を打開できる「大きな夢」の実現に期待を高めている。
(児玉直人)

 視察に参加したのは、後藤新吉専務理事をはじめとする同商議所会員事業所の関係者ら20人。KEKの吉岡正和教授が施設を案内した。
 学術研究施設が多数集積しているつくば市の北部に位置する同キャンパスは、KEKの中枢部。素粒子研究の中心地として、国内はもとより近隣諸国の研究者が集まり、目には見えないミクロの世界の構造解明に日夜取り組んでいる。
 こうした研究は、人類永遠の課題とされている「あらゆる物質がこの世に生まれた理由」や、「宇宙誕生の謎」に迫るもの。また、研究過程で得られた事象や研究機器の開発から派生する形で、新薬の開発など日常生活に関係する成果にもつながっている。
 一行は、吉岡教授からKEKの概要などについて説明を受けた後、電子・陽電子衝突加速器「KEKB(ケックビー)」を見学した。
 KEKBは、電子と陽電子を超高速で衝突させ、その反応を調べる大掛かりな実験装置。同キャンパス敷地の地下に掘られた半径1km、全長3kmの円形トンネル内にある。電子と陽電子は、トンネル内に組み込まれた装置内をそれぞれ逆方向に進み衝突する。
 衝突点には「ベル測定器」と呼ばれる装置があり、10万ものセンサー類を組み合わせて衝突反応をとらえる。研究者はこの反応を詳細に調査しながら、物質の構造解明などを進めているという。
 ILCは、こうした円形加速器を直線状にした施設。遠心力など、曲線を突き進むことによる影響が低減されるため、より良質な衝突反応が得られ、研究に役立つとされている。
 敷地内には、ILC向けの装置を開発している部門も。「国際」の名にふさわしく欧米のスタッフとともに、装置開発をしている様子を見ることができた。
 装置開発が進む一方で、場所の選考については、地殻変動を受けにくい環境や、海外などからのアクセス面も勘案し決められていくという。日本も誘致に力を注いでおり、北上高地などいくつかの有力候補地の名前も挙がっている。
 吉岡教授は、「土台のないところに建物が建てられないのと同様、基礎科学がないところに応用発展はない」と研究の重要性を強調。素粒子物理学研究から派生し、がん治療などにも応用されている事例に、参加者も興味深げに聞き入っていた。