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天文台水沢保存の臨時緯度観測所本館 日本天文遺産に認定
ILCの市民関心どう高めるか(重視される周知策)
北上高地が建設候補地の一つに挙げられている、素粒子物理学の国際研究機関「国際直線衝突加速器(ILC=インターナショナル リニア コライダー)」。建設実現に向けた協議や研究が進む一方、建設候補地の地元では理解・普及活動の充実が求められてきている。奥州市文化会館(Zホール)では14日から15日にかけ、高校生や一般市民を対象にしたILC講演会が開催される。関係者や有識者からは、「分かりやすい啓発事業を積極的に展開すべきだ」「ジャーナリストの池上彰氏のような才能が関係者に必要」との声もある。
(児玉直人)
分かりやすさ「池上彰氏(ジャーナリスト)のように」
Zホールでの講演会は、ILC計画実現を進める産学官連携組織や関係団体などが企画。両日とも、ILC計画に深く携わっている東京大学素粒子物理国際研究センターの山下了准教授が講師を務める。
14日は、国際経済政策調査会と県立水沢高校が主催する同校生徒と保護者が対象の行事。15日は一般市民向けで、東北加速器基礎科学研究会が主催、岩手県や奥州市、奥州商工会議所などが後援する。
山下准教授は、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊東大名誉教授のもとで、素粒子の研究を進めてきた。ILC計画にも携わり、ILCの国内誘致に向けた普及活動にも力を注いでいる。
市民対象にこのような周知活動が必要となっている背景には、「関係者だけが知っていればいい」という時代でなくなってきたことがある。
先端加速器科学技術推進協議会(ILC計画推進に関する全国レベルの産学官連携組織)の有馬雅人事務局長は4月13日、仙台市内で開かれた講演会で、科学技術と市民理解に関する話題を提供。政府の「事業仕分け」で分かったこととして次の3項目を列挙した。
①学術的、社会的、経済的に意義があっても当事者(=研究者)が思うほどには、一般の国民やその代表者としての政治家に理解されていない。
②難しいことを難しく説明するのは簡単だが、難しいことを簡単に説明するのは難しい。
③「それは何の役に立つのですか?」と問われたとき、研究開発の成果がどのように社会還元されるのか示さないといけない。国民レベルで理解・合意されないと、予算は付かない。
国民レベルの理解がなければ、事業に冷ややかな視線があびせられる。しかしその理解構築の方法は、専門知識がない人でも「なるほど」と思わせるものでなければいけない。有馬事務局長は、「難しいニュースを分かりやすく解説しているジャーナリスト池上彰氏のような才能が、研究に携わる当事者に求められている」と強調した。
長年、国立天文台で天文研究に携わってきた、奥州宇宙遊学館の大江昌嗣館長は、「北上高地という自然資産に秘められた可能性を皆で勉強し、理解することが大切」と話す。
現在は有識者による講演会などが中心だが、大江館長は「どうやれば啓発活動が盛り上がり、関心を引き上げられるのか真剣に考える必要があるだろう。科学研究の意義に気付いてもらうまでのプロセスに工夫が必要だ」と、地元自治体の積極的な取り組みに期待している。