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海外研究者の生活心境とは(KEKの広報紙で仏人研究者が体験語る)
素粒子物理学の研究施設として計画されている「国際リニアコライダー(ILC)」の国内候補地の一つに、胆江地方東部の北上高地が挙げられている。当地方への建設が現実的になると、地元が果たすべき役割はいろいろと出てくる。その一つに、外国人研究者の受け入れがある。ILC計画の国内推進母体である高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)は、15日付で発行する広報紙「ILC通信」の最新号に、日本に長期滞在中のフランス人研究者のインタビューを掲載。異国に滞在する家族の心境など、候補地に該当している当地方にとっても参考になる話題に触れている。
(児玉直人)
ILC建設高まる北上高地、地元の役割も大きく
広報紙に登場したのは「フランス線形加速器研究所」所属のフィリップ・バンバデュさん。2008年春、妻のアンナさんと2人の息子とともに日本にやってきた。バンバデュさんは、素粒子研究に用いる実験装置の開発研究に携わっている。
これまで何度となくKEKの実験施設を訪れていたが「腰をすえてじっくりと研究に取り組みたい」と、日本滞在をアンナさんに提案。同じ物理学者というアンナさんは、すぐに同意した。
息子2人が通うフランス人学校近くの東京・浅草にマンションを借りた。息子たちはあっという間に友達をつくり、日本の生活を楽しんだ。その後、母国の学校への進学が決まった次男は、昨年6月にひと足早く帰国した。
一方、アンナさんは半年ほどの間は、つらい日々を過ごしたという。買い物や近所の人との会話など、日々の当たり前のことがままならないためだ。さらに、電車が時間通りに来ることにもストレスを感じた。バンバデュさんは「日本に来て感じるのは、何でも完ぺきであろうとする文化。私たちフランス人には機械的に感じられ、まるでロボットのような自由のない世界に思えた」と語る。
▽あまり感情を出さない▽間接的な言い回しをする──など、日本人独特のコミュニケーション方法にも最初は戸惑いを感じたという。だが「単に慣れれば良いだけの話」とバンバデュさん。「そこに住んでいる人にとって自然な姿であれば、それはマイナス面ではないと思う。日本の特色である『信頼することや正直なこと、フレンドシップやパートナーシップを大切にすること』には感謝している」。
長期滞在は8月でいったん終了。不満らしい不満はないが、しいて言えば住む場所を見付けることの大変さ。賃貸住宅への外国人受け入れ状況は厳しく、契約書はすべて日本語。印鑑もほしい。
バンバデュさんに限らず、KEKには世界各国から多くの研究者が訪れる。ことし5月、奥州市文化会館(Zホール)で開かれたILC計画に携わる東京大学素粒子物理国際研究センターの山下了准教授の講演会で、研究者の居住環境が話題となった。山下准教授は、研究者の家族、特に子育てや教育に関する環境の整備が重要だと強調した。法律や税金など各種制度の適用基準などについても、政府や自治体で協議する必要があると述べた。
4~5年後には、ILC計画の実施を判断する最終的な国際的判断が固まる。実行となれば2020年ごろに建設される見通し。
北上高地への建設が決まった場合、胆江地方も居住環境のみならず、あらゆる面における受け入れ態勢を本格的に協議しなければならない。少しずつではあるが、想定されるさまざまな事象について関係機関や団体は強い関心を持ち考えていく必要がありそうだ。