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火星圏への旅 準備進む(MMX計画、水沢の研究者たちも参加)

北上高地に一筋の光(ILC実現へ準備着々、地域を照らす輝きに)

北上高地に一筋の光(ILC実現へ準備着々、地域を照らす輝きに)
北上高地に昇る朝日。この山々の地下にある花こう岩が、ILCを建設する上で好条件になっているという(金ケ崎町西根和光の三角点展望台から)

 肌にしみるほどの寒さにまで冷え込んだ北上盆地。その上空、漆黒の闇が次第にあかね色へと染まっていく。もうすぐ日の出。時間の経過とともに、盆地の東側に連なる北上高地(北上山地)の山々のシルエットがくっきりと浮かび上がる。人々の営みが、きょうもまた始まる。北上高地の地下は「国際リニアコライダー(ILC)」の国内有力候補地になっている。長引く不況、そして東日本大震災――。気持ちが沈みそうになる雰囲気の中、この地域にとっては、未来へつながる一筋の光と言える計画だ。

 ILCは、素粒子物理学の大規模な国際研究施設。電子と陽電子を光速並みまで加速させ、双方を衝突させて宇宙誕生(ビッグバン)直後を再現。宇宙誕生の謎や物質の成り立ちを解明する。
 ILC関連の研究や技術開発の国内拠点となっている高エネルギー加速器研究機構(KEK)は「世界のILC研究者の間では、日本に対する期待は高くなっている」と指摘する。
 年内に、ILCに使う加速器の国際共同設計チームによる技術設計書が完成する予定。国内外候補地ごとに適したトンネルの形状、必要となる機器装置の効率的な製造方法、低コスト化策などにも議論は及んでいる。2020(平成32)年ごろとする稼働目標年に向け、着々と準備が進められている。
 研究や技術開発などに関する成果もさることながら、この地域の活力を再生させる「唯一の明るい兆し」ととらえる動きもある。奥州商工会議所はPR用のポスターを作製し、市民レベルの盛り上がりを図る。
 福島第1原発事故により「科学」に対する不信感を強めた人たちも少なくない。私たちは科学との望ましい“付き合い方”を再度見つめ直す時にある。原発とILCとでは施設の性格が異なるが、この地域がILC有力候補地であることは、科学が地域振興にどう貢献すべきなのか、人類は科学とどう向き合うのか――を考え、実践できる舞台にもなりうる。
 稜線から一筋の光が差し込んだ。盆地を静かに、しかし力強く照らす。世界各地から訪れた研究者たち、その家族がこの朝日の美しさに触れる日が来ることに期待したい。

ヒッグス粒子とILC

 万物の質量の起源となったとされる「ヒッグス粒子」の探索結果が昨年12月、欧州合同原子核研究機関(CERN)から発表になった。1960年代、英国の物理学者ピーター・ヒッグス氏が素粒子の「質量起源」を説明する理論の中で、その存在を予言。探索の結果、「存在の兆候」がつかめたという。
 兆候から「発見」へとつなげる上で、世界に1カ所だけ建設される国際リニアコライダー(ILC)が、大きな役割を果たす可能性は高い。ILCは、スイス・ジュネーブ郊外にあるCERNの大型粒子加速器を進展させた、次世代加速器と位置付けられている。