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火星圏への旅 準備進む(MMX計画、水沢の研究者たちも参加)

国立天文台水沢観測所敷地にスパコン設置(来春稼働へ準備)

国立天文台水沢観測所敷地にスパコン設置(来春稼働へ準備)
国立天文台のスパコンが設置される予定の建物。右奥に見えるのは奥州宇宙遊学館

 国立天文台(観山正見台長)は、実地観測などが不可能な天文学研究での使用を目的に、高性能演算処理装置「スーパーコンピューター(スパコン)」を、水沢区星ガ丘町の同天文台水沢VLBI観測所(川口則幸所長)敷地内に設置する。現在、東京都三鷹市の同天文台本部敷地内にあるスパコンの更新時期が来年3月末に迫っているのに合わせ、運用コストや危機管理の面から首都圏から離れた同観測所敷地への設置が決まった。同天文台は通信や電力など、運営環境の整備のための準備を進めている。

理論天文学の専用機(三鷹本部内の従来機更新で)

 今回のスパコン設置は、現在、同天文台本部に設置している機器の賃貸契約が来年3月で終了するのに伴った動き。近い将来、首都圏や東海沖地震の発生が懸念されていることを受けた危機管理の問題や、機器冷却に必要な電力やコストの問題から、同天文台関連施設の中で最北の地に当たる、水沢VLBI観測所に白羽の矢が立った。
 設置にあたっては、敷地のほぼ中央にある天文観測機械室(平屋、196平方m)の建物を使用する。現在使用中の機械類を別の場所に移した上で内部を改装。来年4月からの稼働を目指す。
 スパコンは、やはり同天文台本部内にある「天文シミュレーションプロジェクト」が運営しているが、プロジェクト所属の研究員は、引き続き三鷹に駐在。高速通信回線を使って、水沢-三鷹間で処理データをやりとりする。
 同プロジェクトは「シミュレーション天文学」と呼ばれる分野の研究を担当。星の誕生や消滅、太陽系がどうなっていくのか――など、実際に確認することはできない、遠い過去や未来の天文現象をコンピューター上に再現している。
 これまで解明されている理論や天体観測の成果を反映したり、数億にも及ぶ天体の影響力を加味したりするため、一般的なパソコンでは到底処理し切れない大規模な演算処理が必要。そのために、スパコンの力が必要になるという。
 望遠鏡などで実際に観測した現象や、机上で考えられた理論などを確かめる手段で使われるほか、制作した画像などは、一般公開や理科教育などにも活用。水沢VLBI観測所に隣接する奥州宇宙遊学館で公開している、4次元プラネタリウム「4D2U」も、スパコンの解析によって再現している。
 同天文台では更新機となる装置の入札に向けた準備を進める一方、スパコン運営に必要な電力や通信回線など、水沢での受け入れに向けた環境整備の検討作業も進めている。
 同観測所の川口所長は「よく耳にするスパコンは、さまざまな用途に使用されているが、当天文台の場合は天文研究だけに特化した仕様になっており、こうしたケースは世界でも珍しい。施設一般公開の際には、ぜひ市民の皆さんにも紹介し、スパコンを使った研究の成果なども説明したい」と話している。

「ILCの参考事例に」(川口所長)

 国立天文台のスパコンが、同天文台水沢VLBI観測所に設置されることについて、同観測所の川口則幸所長は「国際リニアコライダー(ILC)の誘致を考える際、スパコン設置の経験をモデルケースのように活用できれば」と話す。スパコン設置に不可欠な電力と通信回線の確保は、ILCと似ている部分があるという。
 北上高地(北上山地)が有力候補地の一つとなっているILCは素粒子物理学の大規模研究施設。国際学術研究都市の形成や、地域振興に期待する声は大きくなっている。
 しかし、ILC建設に至ったとしても課題はある。
 ILCでは、物質の構造や宇宙誕生の謎を解明するための研究が進められる。その際、電子と陽電子という非常に小さな物質を光速に近い状態で衝突させる。使用するのは「加速器」と呼ばれる装置。この装置を動かすには膨大な電力を必要とする。
 東日本大震災により、東北電力が有する仙台などの火力発電所が被災。福島第1原発事故後、原発再稼働に異議を唱える声も高まるなど、電力をめぐる環境に心配は尽きない。
 もう一つの問題は建設コスト。参加各国で負担するILC建設費は、2007年時点での試算で約8000億円とも言われている。日本のみならず、欧米諸国も財政事情が厳しいこともあり、建設や運営にかかるコストは大きな悩みの種だ。
 天文台が水沢に設置するスパコンにも、共通する点がある。
 川口所長によると、スパコンの運営経費は年間約3億円で、このうち約1割が電気代。さらに電気代の3~5割は、稼働によって発熱する機器の冷却用装置を動かす電力だという。
 川口所長は「冷却手法にうまい案があれば、その部分のコスト削減につながる。ただ、天文学とは直接関係のない分野なので、私どもが研究して、とはなりにくい。岩手県などが音頭を取り、国の助成によってこのような研究の実証プロジェクトが行われることを期待したい」と、国の助成による研究に期待感を示す。
 ILCも、スパコンによる天文学研究も、夢が膨らむ計画ではあるが、国民の税金が大きく絡む現実がある。川口所長は「節電による低コスト化のほか、通信環境の確保も含め、今回の私どもの取り組みや経験をILCの建設検討に役立ててもらえれば」と話している。