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ILC有識者会議「議論のまとめ」最終版公表
素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)計画に関する課題を検証してきた第2期文部科学省ILC有識者会議(座長・観山正見岐阜聖徳学園大学長、委員14人)は15日までに、「議論のまとめ」の最終版を公表した。ILC準備研究所(プレラボ)の設置は「時期尚早と言わざるを得ない」と結論。海外でILC計画とは別の大型計画も検討されており、素粒子物理学や加速器科学全体の将来像、国際的な研究開発戦略を練り直す必要性を指摘した。このほか、奥州市など県内自治体で実施されているような小中学生を対象としたILC出前授業に関連し、科学教育とプロジェクト推進の取り組みは切り分ける配慮が必要との意見があったことも明記された。
(児玉直人)
プレラボは時期尚早、戦略の練り直し必要
第2期有識者会議は昨年7月から今年1月にかけ、ILC推進研究者側から文科省に提出された課題対応状況やプレラボ提案書について、妥当性や問題点などを議論。その結果や提言も含めた「議論のまとめ」の文言修正が完了し、最終版の公表に至った。
「まとめ」の内容は1月20日の最終会議で示された案から大きな変更点はない。プレラボへの移行については当初「困難」と表記されていたが、機が熟していないという意味合いを込め「時期尚早」と書き換えた。
有識者会議では、研究意義や社会への波及効果といったメリットに理解を示す意見が出た。一方で国内外の厳しい財政事情や新型コロナウイルスに代表される社会情勢に変化が起きており、推進する研究者に対し「広い視野で社会の現状を理解し、現実的で実効性のあるプロジェクトの立案が求められる」と指摘。これまでのILC計画の進め方を再検討する時期に来ているとした。その作業に当たっては、ILCに限定した議論とせず、ヨーロッパの超大型円形加速器(FCC)計画の検討状況なども加味し、幅広く練り直す必要性があるとの考えを示した。
国民理解醸成の進め方に関しては、「特定地域に偏らない取り組みが重要で、学術的意義や環境・安全面の課題も含めた丁寧な説明が基本となる」とし、一方的な理解増進ではなく、双方向的なコミュニケーションの実施に努めていくことが肝要だとした。関連して、小中学生らへの出前授業に対し「科学への興味関心の促進とプロジェクトの推進とは切り分ける配慮が必要」との意見が出たことも明記された。
FCCはFuture Circular Colliderの略。スイスのジュネーブ近郊にある素粒子研究機関「欧州原子核研究機構(CERN)」が計画している周長100kmにも及ぶ円形加速器の建設計画で、現在CERNが運用している円形加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」の10倍のエネルギーで粒子を衝突できるという。