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天文台水沢保存の臨時緯度観測所本館 日本天文遺産に認定
地球から最も近い巨大ブラックホール、詳細な構造くっきり
国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の研究者らからなる国際研究チームは、地球から最も近く天の川銀河の中心に位置する巨大ブラックホール(BH)「いて座A*(エースター)」の詳細な構造を明らかにした。同観測所のVERA(天文広域精測望遠鏡)などを用いて5年前に観測したデータを基に、同観測所内にあるスーパーコンピューター「アテルイⅡ」を使用するなどして解析。22日付の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」=米国=に研究成果が掲載された。本間所長らが参加する国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」では、「いて座A*」のBH本体を画像化する作業を進めており、今回の成果はその前進に大きく寄与するという。
(児玉直人)
水沢のVERAやアテルイⅡも駆使
EHTは2019年4月、地球から約5500万光年(1光年=約9.5兆km)離れた場所にある「M87銀河」中心部のBH本体の画像を公開した。観測自体は2017年に行われ、北南米大陸とヨーロッパ、南極、ハワイに点在する電波望遠鏡8基を使用した。その際、もう一つ観測していたのが「いて座A*」。いて座が見える方向に位置することにちなんで命名された。
二つのBHの本体撮影と並行するように、BH周辺の全体像を解明する研究も実施。その観測に使われたのが、水沢観測所のVERAをはじめ、日中韓3カ国計21台の電波望遠鏡で構成される「東アジアVLBIネットワーク(KAVN)」だった。BH本体の撮影とほぼ同時期に行われた。
地球から「いて座A*」までの距離は約2万6000光年で、「M87銀河」よりはるかに近い。しかし、宇宙空間に漂うガスが邪魔する星間錯乱により、観測データをそのまま画像化すると、ぼやけた不鮮明な状態になってしまう。近くにありながら、本来の姿が見えにくい状態だった。
スペインのアンダルシア天体物理研究所の逍壹濟(チョウ・イルジェ)氏が率いる研究チームは、過去の観測データを活用しながら星間錯乱の影響を除去。クリアな円形の画像を得ることができた。解析には、水沢観測所敷地内にあるスパコン「アテルイⅡ」も用いられた。
BH周辺は円盤状にガスが渦巻いている。水沢観測所の秦和弘助教は「円盤に対し両方向垂直にジェットが噴出している。地球から観測してほぼ真円に見えるということは、こちら側に向かってジェットが吹いていることが予想できる」と話している。