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ILC 欧州建設の可能性も(推進派2氏が最新動向を語る)
ILC準備研設立を断念(KEKが方針示す)
高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市、山内正則機構長)などは26日までに、昨年6月に提案した内容に基づく素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の準備研究所(プレラボ)設立を断念した。当面は実験装置の開発研究を進めるほか、世界的な素粒子研究戦略も練り直す。一般社会や経済界、他分野研究コミュニティーに向けては、ILCが果たす学術的意義などを周知する活動を強化。今月14日に文部科学省ILC有識者会議が公表した「議論のまとめ」の指摘事項にほぼ沿った対応を取る考えだ。
(児玉直人)
意義の周知は強化
ILCに関する研究者側の活動はここ最近、KEKのほか、日本の高エネルギー物理学研究者会議の下に作られた「ILCジャパン」、世界の加速器研究所代表者らで組織する国際将来加速器委員会(ICFA)の下に立ち上げた「国際推進チーム(IDT)」の計3団体が連携し進めていた。
2020年8月に発足したIDTは、プレラボ提案書を昨年6月に公表。▽加速器施設の技術設計書作成▽土木工事やインフラ整備に向けた設計検討、環境影響評価▽国際研究所設置に向け、日本の自治体への情報提供▽広報周知活動の調整――などを行うとした。
IDTの活動期間は1年から1年半程度。順調に事が進めば2022年度中にプレラボが立ち上がり、4年後にはILC研究所へ移行、約10年の建設期間に入るというシナリオも描かれていた。
しかし、同省ILC有識者会議は、研究の意義は認めるが、プレラボの設置は「時期尚早と言わざるを得ない」とした。背景には、国内外の厳しい財政事情、新型コロナウイルスに代表される社会情勢の変化などがある。また、ヨーロッパでは別の大型加速器計画も検討されており、ILC計画のみならず素粒子物理学や加速器科学全体の将来像、国際的な研究開発戦略を再構築する時期に来ていると指摘した。
有識者会議の結論を受け、KEKは「プレラボに代って当面必要な加速器の開発研究を行う枠組みを設け、開発項目を再整理した上で、共同研究を行うことをICFAに提案する」と、今後の取り組み方針を明らかにした。昨年6月に提案した方法によるプレラボ設置は、事実上断念したことになる。
有識者会議は、国民や他分野研究者に対する理解・普及の在り方に関しても改善を求めている。KEKは対外的コミュニケーションを図る組織を構築し、対応していく考え。「将来のILC実現につながるように、関係者間の信頼関係を保ちながら、これらの活動を進めていく」とコメントしている。