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天文台水沢保存の臨時緯度観測所本館 日本天文遺産に認定
誘致色 薄まる出前授業(奥州市ILC推進室)
素粒子実験施設ILC(国際リニアコライダー)に関する出前授業が、本年度も奥州市内小中学校で行われている。教育現場におけるILC普及活動に関しては、ILC誘致に批判的な市民団体のほか、文部科学省ILC有識者会議の中でも問題視されてきた。誘致の見通し自体が不透明になっている中、市ILC推進室は「誘致ありき」の話題提供は控え、科学研究全般の意義を知ってもらう内容に本年度からシフト。国立天文台水沢VLBI観測所やブラックホールなど、既存の施設や研究実績の紹介に時間を多く割いている。
(児玉直人)
指摘踏まえて対応(天文台の話題中心に)
市によるILC出前授業は、市内中学校の2年生向けに2014(平成26)年から実施。翌年は希望する小学校の高学年にも対象を拡大した。開始当初は「ILCができれば奥州市はもっと有名になる」といった切り口で、子どもたちに熱烈アピールした。
県内では出前授業のほか、ILC実現を願うのぼり旗や看板の製作なども教育現場で行われてきた経過がある。こうした普及方法に、ILC誘致に否定的な市民団体などからは批判の声が出ていた。ILC有識者会議が今年2月に公表した「議論のまとめ」にも、科学教育とプロジェクト推進の取り組みは切り分ける配慮が必要との指摘が盛り込まれた。
6月27日、江刺の市立藤里小学校(林博文校長、児童29人)の5~6年生15人が市ILC推進室職員による出前授業を受けた。ILCの話題以上に、宇宙の謎や天文台に関係する内容が中心。宇宙の謎を解く一つの方法として、ILCが簡単に紹介された。
講師を務めた職員は「北上山地が有力な候補地になっている」「奥州は科学に縁がある地域。宇宙や科学の話に興味を持ってもらえたら」と呼び掛けた。児童からは宇宙に関する質問はあったが、ILCに直接触れた質問はなかった。
同推進室の二階堂純室長は「市として誘致を目指す姿勢に変わりはないが、出前授業に対しては以前からさまざまな意見をいただいている。かつてはすぐに実現し、地域が良くなるような雰囲気もあったが、誘致を巡る実態も踏まえ、科学の重要性を伝えることを意識してやっている」と話す。
岩手県ILC推進局では、出前授業などに対する指摘があることを受け止めつつ、「総合的に考えて対応している」と説明。高校生を対象に実施する研究コンテストについても、「一流の研究者の審査を受ける良い機会で、人材育成の面でも意義がある」と強調する。
こうした行政側の対応姿勢に、中学校理科教諭を長年務めた元小中学校長の阿部恵彦さん(78)=胆沢若柳=は、「自然科学の基礎的な授業ならまだしも、このような出前授業が継続されていること自体ナンセンス。天文台の話題を入れても、単なるすり替えでしかない」と厳しく批判。「教育現場から本質を突いた意見を言う人がいなくなり、上から言われた通りの対応しかできなくなっているのも問題だ」と指摘している。