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天文台水沢保存の臨時緯度観測所本館 日本天文遺産に認定
基礎科学研究とクラウドファンディング 有用性や課題を考察(天文台の本間所長)
国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長は5日、東京都江東区のテレコムセンタービルで開かれた大規模イベント「サイエンスアゴラ2022」の会場で、社会と科学の在り方を考える対話企画に登壇した。同観測所が今年実施したクラウドファンディング(CF、資金調達)の取り組みを紹介しながら、基礎科学研究を持続させるための施策や課題について、来場者やネット聴講者と共に考えを巡らせた。
(児玉直人)
サイエンスアゴラ(東京)の対談イベントに登壇
サイエンスアゴラは、社会と科学技術との望ましい関係性を考える参加型イベント。科学技術振興機構(JST、橋本和仁理事長)が主催し、体験型のイベントや対話を重視したトークショーを中心に4日から6日まで開かれている。
本間所長は、科学コミュニケーション実践グループ「ACADEMIJAN(アカデミジャン)」が提案した対話企画、「皆で紡ぐ! 未来のブラックホール研究」にゲストスピーカーとして登壇。同グループのメンバーで水沢出身の会社員、菅原風我さん(27)=都内在住=らが中心となり実施した。
本間所長は観測所の歴史やブラックホール(BH)に関する研究を紹介しながら、天文学など基礎科学研究全般で、予算が頭打ち状態になっている実情を説明。若手研究者の育成にも支障が出ているとして、さまざまな取り組みを展開しており、その一つとして一般市民や民間企業から資金を募るCFに取り組んだことを伝えた。
本間所長は「若手研究者を1人雇用でき、研究推進の可能性を得られたことも大きいが、一般市民の方々などから直接の応援を聞けたことが一番大きい」と述べた。
来場者やネット聴講者との対話では、新たな資金確保手段として、CFの有効性について考えた。CFのような取り組みを支持する声があった一方、人気投票のようになり「怪しい科学研究に対する資金集めの手段にならないか。市民もしっかりとした科学の基礎知識を持つ必要がある」との指摘もあった。
本間所長は「人気投票というリスクがあるというのもその通りだと思うが、CFの取り組みが広がっていけば、課題解決も進むと思うし、実は有益な無名研究にも支援が行くのではないか」と持論を展開した。
企画終了後、菅原さんは「多くの人がBH研究に関心を持って、応援していることがあらためて分かった。CFの取り組みについては可能性もあるし、できることの限界もあるが、実践しながら解消していけると思う。何より新しいことに挑戦していく姿勢が大切だと思う」と話していた。
サイエンスアゴラでは、公募により選定した39のステージ企画と73のブース展示が行われている。北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」のコーナーも設けられており、岩手県ILC推進局の職員らがILC計画の概要をPRしていた。
