火星圏への旅 準備進む(MMX計画、水沢の研究者たちも参加)
欧州はFCC-eeで(次期素粒子物理戦略策定グループが勧告)
ヨーロッパ(欧州)の次期素粒子物理戦略の策定作業に当たっていた専門家グループ「ESG(European Strategy Group)」は今月、円形衝突型加速器「FCC-ee」が次期主力加速器の最優先選択肢だと勧告。さらに優先的代替案として、FCC-eeの規模を縮小した施設を提示した。一方、本県の北上山地が有力候補地とされている国際リニアコライダー(ILC)のような線形衝突加速器など、他の計画は評価はしたものの、優先順位がない代替案として記載された。ILC計画に携わる研究者たちは「ESGが示した優先的代替案はコスト削減が比較的限定的」などとする考察をまとめ、事実上の反論をしている。勧告は欧州合同原子核研究所(CERN)理事会に提示され、来年5月に開かれるCERN理事会特別会合で次期戦略が決議される。
(児玉直人)
線形加速器は優先順なき代替案に
同戦略は欧州の素粒子物理学分野における研究開発の行程や優先順位を定めるもの。今回は2020年以来の更新となる。
ILCの日本誘致、北上山地誘致を求めている関係者の間では、同戦略をILC計画の実現を左右するものと認識。策定作業が行われる今年から来年にかけては「誘致判断の節目」と捉えている。
ただ、あくまで欧州の戦略であり、ESGは欧州が主導し責任を持てる選択肢を示す立場にあるとみられる。勧告文には、日本を連想させる特定プロジェクトの印象が強い「ILC」の名称は一切なく、ILCのような線形衝突型加速器は「LCF(Linear Collider Facility)」という施設概念を現す用語で表現した。
FCC-eeは、ILCと同じく、電子と陽電子を衝突させる。CERNが拠点を置く、ジュネーブ近郊(スイスとフランスの国境地帯)の地下に、JR山手線=東京=の大きさに相当する円形加速器を整備する構想だ。約3兆円という建設費がネックとされている。
それでも、勧告では質量を与える素粒子「ヒッグス粒子」の詳細研究をはじめ、素粒子の種類の違いなどを詳細に調べる「フレーバー物理」など、競争力が高い多彩な研究領域で、極めて高い新発見の可能性を秘めていると強調している。
優先的代替案のFCC-ee縮小版は、実験装置を減らすなどの措置で想定建設費を約15%削減できるという。「研究の幅や到達精度に大きな影響はあるが、依然として強力な物理計画を提供できる」と強調した。
他計画に対する評価も実施。LCFはヒッグス粒子研究などでは競争力はあるが、フレーバー物理など他の多彩かつ競争力を有する分野では不利との見解を示した。
一連の勧告に対し、ILCを推進してきた中田達也氏(スイス連邦工科大学ローザンヌ校名誉教授)らは今月18日付で、「欧州戦略グループの勧告に関する考察」を発表。優先的代替案として示されたFCC-ee縮小版が正式手順を踏んだ評価をしておらず、15%のコスト削減に至っても「現実的な代替案とは言い難い」などと指摘した。
LCF推進派の研究者たちは、来年1月初旬に開催する会合で今後の方向性について議論する予定という。