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ブラックホールの活動期捉える
人類初見ブラックホール「1年後」示す(本間所長ら所属の国際チームが成果)
「人類が初めて目にしたブラックホール(BH)」として2019(令和元)年4月に公開された巨大BHの1年後の姿が日本時間の18日、世界で同時公開された。国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長らが所属する国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」による成果。BHの影の周りに輝く「光子リング」で、特に明るい部分の位置に変化が見られた。超高温のプラズマガスが、BHに吸い込まれていく様子を知るヒントになるという。今回の研究論文は、欧州の天文学専門誌「アストロノミー・アンド・アストロフィジクス」に掲載された。
(児玉直人)
ガスの動き知るヒントに
観測対象になった巨大BHは、おとめ座が見える方向にある「M87銀河」の中心部に存在。地球から約5500万光年(1光年=約9.5兆km)の距離に位置する。
EHTは2017年4月、南北アメリカ大陸、ハワイ、スペインに点在する5カ所7台の電波望遠鏡を使い、M87の巨大BHを観測。複数の望遠鏡を連動させ、一つの天体を観測する超長基線電波干渉法(VLBI)で、高視力かつ高精度の観測を実施した。
観測から2年後の2019年4月に画像を公開。BHの存在を示す黒い影と、ドーナツ状に輝く光子リングの姿は、「人類が初めて目にしたBHの姿」として話題となった。
2017年4月の観測後、日本や台湾、アメリカの研究者たちは、グリーンランドのアメリカ宇宙軍・ピトフィク基地に、直径12mの電波望遠鏡を新設。EHTはこれを活用し、6カ所8台の体制で2018年4月、M87の巨大BHを再び観測した。
最初の観測結果の信ぴょう性を証明するとともに、1年間でどのような変化が見られるか検証を進めるのが主な目的。解析の結果、光子リングの大きさはほとんど変わらなかったが、リングの中で特に明るくなっている領域が、1年前より少し右側に動いていた。
本間所長は「BHの重さは、光子リングの直径から導くことができる。1年後、あらためて観測しても大きさに変化がないということは、そこに同じBHが存在していることになる」と説明。一方、リングの明るさの位置については「BHの周囲にあるプラズマガスの濃淡によって、リングに明るい場所と暗い場所が生じる。1年で場所が変わっているとすれば、プラズマガスが回転しながらBHに吸い込まれている様子を示唆している可能性が高い」とみる。
今回の研究には本間所長のほか、同観測所で活動する天文学者も多数関わっている。特にグリーンランドへの電波望遠鏡設置には、新潟大学の小山翔子助教、二戸市出身で八戸高専の中村雅徳教諭のように、女性研究者や本県出身者の活躍もあった。
光さえ吸い込むと言われているBHだが、その性質や構造、起きている現象はあくまで推測の域を脱しなかった。EHTの地道な研究により、少しずつ謎が解き明かされている。
本間所長は「今後はEHTの観測網に、韓国の電波望遠鏡も加わる予定。電波望遠鏡を載せた人工衛星を飛ばし、宇宙空間からの観測を加えた計画もある。水沢観測所の電波望遠鏡は、波長や性能の面でEHTを構成する電波望遠鏡に加えられないが、BHから噴き出すジェットの研究では、東アジアの電波望遠鏡群と連動した観測に活用している。BHの理解を深めるには、関連装置やネットワークを拡充しつつ、継続的な観測によって動画作成をしていくことが重要になる」と話している。