ILC「新しい進め方」必要(KEK機構長、仙台で講演)
ILC「新しい進め方」必要(KEK機構長、仙台で講演)
高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)の浅井祥仁機構長は8日、仙台市内で「ILCの現状と次のステップ」と題して講演した。欧州原子核研究機構(CERN)が将来円形衝突型加速器(FCC-ee)を優先候補に位置付けたことや、米国の国際協力姿勢の変化などを踏まえ、「国際環境は大きく変わっている」と指摘。岩手県や宮城県の産学官関係者が北上山地に誘致しようとしている国際リニアコライダー(ILC)については、計画自体を実現するには「新しい進め方が必要」との認識を示した。
(児玉直人)
国際環境変化を指摘
浅井機構長は、東北ILC推進協議会総会後の講演会で登壇した。
質量を与える素粒子「ヒッグス粒子」の詳細研究を目的に、電子と陽電子を衝突させる「ヒッグスファクトリー」の構想として、ILC、FCC-ee、中国の巨大円形電子・陽電子衝突型加速器(CEPC)の3計画を比較。ILCについては、超電導加速技術を用いる線形加速器で、消費電力や環境負荷を抑えられるほか、将来的なエネルギー拡張が可能と説明した。
一方、5月に採択された「欧州素粒子物理学戦略2026年改訂版」で、FCC-eeが次期旗艦計画の優先候補に位置付けられたと説明。「残念ながら、グローバル化しようとかILCを進めようという記述はなかった」と語った。
FCC-eeは建設費が3兆円を超える巨大計画で、加盟国負担の増額や資金調達が課題になると指摘。ドイツや北欧諸国などには慎重論もあり、「2028年いっぱいは欧州で建設の可否を議論することになる」との見通しを示した。
また、米国については国際協力に後ろ向きな姿勢が強まり、ILCの技術開発組織「ILCテクノロジーネットワーク(ITN)」にも参加していない現状を紹介。中国でもCEPC計画は停滞しているなどと説明し、「国際環境は大きく変わっている」と語った。
その上で「本当にグローバルな加速器を実現するなら、各国政府が議論の主体にならなければならない」と指摘。現状では欧州がFCC-eeを進めようとしているため、「CERNが『自分たちだけでは難しい』という状況にならない限り、本格的な国際共同建設の議論には移りにくい」との認識を示した。
ILCの課題の一つである国民理解については、「CERNのような組織を日本に誘致するための理解ではない」と浅井機構長。半導体や量子技術、宇宙分野などに活用される重要性を列挙し、「加速器技術が新たな産業や技術革新を支える基盤技術であることを理解してもらうことが重要だ」と述べた。
講演の最後には「新しい進め方が必要」と強調。国際情勢や研究環境の変化を踏まえ、従来とは異なる形で加速器科学の将来像を議論していく必要性を訴えた。
日本誘致の決議文可決(東北ILC推進協)
東北ILC推進協議会(共同代表=冨永悌二・東北大総長、増子次郎・東北経済連合会名誉会長)は8日、仙台市内のホテルで総会を開き、本年度事業やILC日本誘致にかかる決議文を原案通り可決した。
決議文では、ILC日本誘致について「わが国の成長戦略を支える重要な国家的プロジェクト」と強調。今後、政府に対し▽重要施策における高性能加速器開発の位置付けの明確化▽加速器技術の産業応用を進めるための環境整備▽ILC日本誘致に向けた国際協議を進める――の3点を要望する。