国際緯度観測は「ユネスコ憲章を体現」
国際緯度観測は「ユネスコ憲章を体現」
奥州宇宙遊学館でボランティアガイドを務めている蜂須賀一也さん(55)=国立天文台水沢VLBI観測所特定技術職員=はこのほど、水沢ユネスコ協会(小野優会長)の会員らに、国際緯度観測事業の歴史的意義などについて解説。「平和が失われないためには、人類の知的および精神的連帯の上に築かなければならない」と記されたユネスコ憲章前文に触れ、「2度の世界大戦中も休まず続いた国際緯度観測事業は、戦時下に生きた人々の連帯の物語だ。憲章前文を体現しており、世界遺産級の価値がある」と持論を展開した。
(児玉直人)
歴史伝える蜂須賀さん、水沢ユネスコ協会員に価値語る
学習会は地域の歴史や文化への理解を深める一環として開催。小野会長ら協会員10人ほどが聴講した。
蜂須賀さんは、VLBI観測所の電波望遠鏡運用業務に従事する傍ら、旧緯度観測所時代の歴史的建造物や資料の管理も担当。余暇を利用してガイドボランティアや出前講演などを行っている。
蜂須賀さんは、水沢をはじめ世界の同緯度上で実施された緯度観測の歴史、その意義を紹介。「アジアを含めた世界初の国際科学プロジェクトであり、統一した手法で観測したのも世界初。同じ方法で観測を持続した約80年という歳月は世界最長だ」と説明した。
あくまで個人的な見解と前置きした上で、「緯度観測事業は世界遺産登録できるだけの大きな価値がある」と主張。▽2度の世界大戦など困難を乗り越えた▽科学の平和的利用▽人種的、民族的な差別がなく科学を通じた交流が続いた▽現在も続く国際観測事業の原点になっている――など、世界の誰もが共有できる物語が存在していると強調した。
仮に実現すれば、岩手県内では縄文時代(御所野遺跡)、平安時代(平泉)、江戸・明治時代(橋野鉄鉱山)に、明治・大正・昭和時代の遺産が加わることになる。「時代的に多様な世界遺産を有することになる。日本初の科学分野の世界遺産にもなりうる」と蜂須賀さん。文化庁の動向に注目しながら、引き続き緯度観測所の価値を地道に周知していきたいと述べた。
ユネスコ(国連教育科学文化機関)は世界遺産制度を所管し、世界遺産委員会で登録の可否を決定している。一方、水沢ユネスコ協は「民間ユネスコ団体」と呼ばれる立場。世界遺産登録や文化財の管理業務等に直接携わるわけではないが、全国にはユネスコの理念に賛同し、世界遺産や地域の文化遺産を題材に、文化財の保護・継承について学んでいる例もある。
小野会長は「本会は3年後に80周年を迎える。民間ユネスコとして、後世に残したいこと、伝えたいことをしっかり紹介していきたい」と話していた。
県議会、奥州市議会の一般質問でも話題に
緯度観測事業の世界遺産登録に向けた動きについては、自治体や国、国立天文台などが公式方針を示しているわけではない。ただ昨年末から県議会や奥州市議会の一般質問で、少しずつ取り上げられている。
昨年の県議会12月定例会一般質問で、奥州選挙区の菅野博典氏(希望いわて)は「国立天文台水沢の持つ世界遺産級の文化財的な価値が、十分に認識されていない」と指摘。達増拓也知事は「旧緯度観測所本館など建造物4棟が、国登録有形文化財に登録され、観測所の歴史を今に伝えるものとして高く評価されている。岩手県の宝、さらには世界の宝とも言うべき価値を有している」と答えた。
今月2日の市議会一般質問では、高橋晋氏(新奥会)も世界遺産登録の可能性について市側の考えをただした。高橋勝教育長は▽登録推薦の要件である国重要文化財になっていない▽国立天文台など施設所有関係者から市への働きかけはない――と現状を説明。その上で「天文台が本市の歴史にどのような影響を与えたか、より深く調査研究することが必要。引き続き関係機関と情報を交換していく」と述べている。